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小競り合いのようです
しおりを挟む「冒険者ギルドに研修......わたしも行きたいのは山々ッスけど、休暇は今日までなんですよ」
王都の中央通りを歩きながら、セリカは夕焼けに染まる空を残念そうに見上げた。
王国軍騎士の休暇は不定期で、彼女も今日が終わればまた仕事が始まってしまう。
「ごめんティナ、実はわたしも一度実家に帰らなくちゃいけなくて......、ギルドの研修は行けそうにないんだよ」
申し訳なさそうに手を合わせるクロエ。
でも、大手ギルドの協力が得られるかもしれない絶好のチャンスはこの先もう巡ってこないかもしれない。
幸いわたしは今週いっぱい予定も無く、研修に打ち込める。
「まあしょうがないか、元々言い出したのはわたしだし、休暇を使って行ってくるわ」
ちょっと心細いけど、1人で行くしかないか。
「ごめんねティナ~! ティナを1人にするなんてもう二度としたくないんだけど、今週ばっかりは勘弁してー!」
「あんたは過保護の親か! 大通りなんだから離れなさいよ~ッ!」
このいつものやり取りがしばらくできないのは少し寂しいけど、最初の頃に戻ると思えば――――
「――――いい度胸してんじゃねえか!! こっち向けオイッ!!」
人垣を突き破って、怒声が響き渡った。
なにごとかと思い慌てて騒ぎの中心部へ向かうと、案の定揉め事が発生しているようだった。
「なあ兄ちゃん、俺は一応王都じゃ名の知れた冒険者なんだよ。クラスレベル42の上位冒険者に指摘するたあ何様だ!?」
鎧に身を固めたいかつい男が叫ぶ。
その相手は黒髪黒目の、端正な顔立ちをした青年。
青年は地面に落ちたタバコを指差し言った。
「人様に迷惑を掛けるなと教わんなかったか? お前の振る舞いで非喫煙者はもちろん、マナーを守っている喫煙者の方まで迷惑してんだよ」
どうやら、全身鎧の冒険者がタバコを路上に捨て、それを見た青年が注意したことが騒動のキッカケのようだ。
「お前どこの者《もん》だ? 見ない風貌だがあんま善人ぶってんなよア"ァ"ッ?」
男の持つメイスが石畳を叩き砕く。
マズい......、完全武装した上位冒険者じゃいくらなんでも相手が悪すぎる。
だけど、男の威嚇に身じろぎすらせずに青年は続けた。
「どこの者かと聞かれてもなぁ......、それこそこの世界より東の果て――――日の出るところだから、この国の人間は知らないと思うぜ」
淡々と返答を並べる青年は、どこか纏う雰囲気が違うように思えた。
黒髪黒目、東の果てから来る者......。王都に配属されたばかりの頃にフォルティシア中佐と話した民族と特徴が一致していた。
「ここより東に国なんてねえよ、その寝ぼけた頭かち割ってやるから目ぇ覚ましなッ!!!」
大質量のメイスが豪腕によって振られた。
急いで駆けたけど間に合わない! しかし、上位冒険者の放った一撃が青年の頭を潰そうとした瞬間だった......。
――――ギィンッッ――――!!!
根本から砕けたのは青年の脳天ではなく、幾多のモンスターを葬ったであろう歴戦のメイスの方だった。
「なっ......!?」
破片がきらめく中で見えたのは、自衛程度にしか使えなさそうな1本のナイフ。
青年の持つ貧弱そうな武器が、重量系武器を粉砕していたのだ。
普通なら絶対にありえない、思考する間もなく青年は全身鎧の男へ肉薄した。
「――――ああ言い忘れてたけどよ、俺もこう見えて同じ"冒険者"なんだ。あんたクラスレベル42だっけ?」
青年はレベルアップしたわたしでも捉えきれない速度でナイフを操ると、大衆がまばたきするほどの時間で男の防護魔法が付与《エンチャント》された鎧を、野菜でも切るかのようにバラしてしまった。
尻もちをついた男が、バラバラになった鎧を一瞥してから青年の顔を見上げた。
「てめえッ......! 何者だよ!?」
フル装備、それもレベル40以上の冒険者をここまで圧倒するなんてかつてのベルクートでも無理だ。
この人いったい......。
「俺は王都に住み込むしがない冒険者だよ。あと、これに懲りたらもうタバコポイ捨てすんなよ」
黒髪の青年はタバコを拾うと、そのまま場を去ってしまった。
「ヒャア~......、今の人凄かったッスね。あんなナイフでどうやったんでしょう」
セリカも感嘆の声を上げる。
「わたしもよくは見えなかったわ」
「クラスレベル62のティナさんでも完全には見えなかったんですか......、相当ですね」
「わたしなんて全然見えなかったよ~。でも、なんかナイフに魔力が入ってたよ」
元アンチマジック大隊なだけあり、クロエはナイフに込められた魔力をすぐに看破したらしい。
どっちにしろ、冒険者は敵にするより味方にしといた方が良さそうね。
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