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空挺降下
しおりを挟む――――アクエリアス上空・装甲飛行船ストラトロード内。
「降下1分前ですッ!!」
ドロップゲートが重い音をたてながら開くと、白色基調の美しいアクエリアスの街が雲下に見えた。
緊張と不安が足元から虫のように這い上がってくる、胸のレンジャー徽章を握りしめ、必死に恐怖を押し殺す。
怖くないと言えば嘘だ、こんなの怖いに決まってる。
でもそれで臆するなんてことはない、クロエが待ってる。彼女のペアは他の誰でもないわたしなんだ、守ると決めた、助けると約束した。
「降下始めッ!!!」
だからわたしは――――――――何度でもあなたを助けるッ!!!
「総員降下ッ!」
空中へ身を委ね、蒼空へ体を放り出した。
4隻の飛行船から次々にレンジャー騎士が降下、重力に任せて一気に急降下を開始する。
同時に、街中で閃光が瞬いた。
「対空砲火です!!」
《防御支援! 魔導士部隊は障壁を展開せよ!!》
一緒に降下した王国軍魔導士が、わたしを含めた全降下部隊に一時的な障壁を展開。
逆さまに降る雨のような弾幕を、わたしたちは猛烈な速度で突き進んだ。
《3番艦被弾!! 面舵いっぱい! 最大船速で離脱する!!》
《1番艦、装甲ブロックに被弾! 飛行に支障なし、離脱する!!》
わたしたちを運んでくれた飛行船から被弾報告が飛ぶ、けれど、戦車にも使われる魔導金属装甲のおかげで、致命傷には至らずに済んでいた。
パラシュートを開くタイミングで、真下を別の魔導士部隊が横切った。
洋上の強襲揚陸艦から発艦した魔導士が、攻撃魔法で次から次へと対空砲をピンポイントで破壊していたのだ。
広場が近づく、しかし、対空砲とは全く違う攻撃がわたし目掛けて飛んできた。
パラシュートを燃やし尽くさんばかりのそれは、上位電撃魔法。わたしのよく見知った元パーティーメンバーが近くにいるらしい。
既に十分減速していたわたしは、パラシュートを外すとそのまま広場へ転がり込む。
体勢を立て直すと同時に抜剣、突っ込んできた魔法剣士の一撃を受け止めた。
「――――久しぶりアリア、黒髪の騎士の場所って知ってる?」
「この雑魚剣士がッ! お前のせいで!! お前のせいでぇッ!!!!」
よっぽどギルドでスカートを翻《ひるがえ》されたことに根を持っていたのだろうか、激昂する元仲間は、躊躇なくわたしに剣を輝かせた。
以前同様、わたしは攻撃を避け続ける。
「もう一度聞くわ、黒髪の騎士はどこ?」
「知ってても教えるわけないじゃない!? 税金泥棒の人殺しが調子に乗るな!!」
どっちが......。
前は傷つけずに捕縛した、けど今回わたしも手加減する気は一切ない。
アリアの連撃をくぐり抜けると、彼女の腹部へ本気の打撃を叩きつけた。
「がはっ......!?」
脱力した彼女は膝から崩れ落ちると、そのまま気を失った。
でもこれで終わりじゃない、もう1人厄介なのが近くにいる。
「『レイドスパーク』!!」
降り注ぐ雷撃魔法を紙一重でかわす。砂塵が晴れると、瓦礫を踏み越えてヴィザードの上級魔導士が姿を現した。
「ホントに不愉快だよ、捨てたはずのゴミクズにここまでコケにされるなんてね。お前もうぶっ殺さなきゃ気が済まないよ」
「わたしだって同じ気持ちよ、無関係の市民を巻き込んでおいて――――タダで済むと思わないで」
「ッ!!!!」
シルカは額に血管を浮かべると再び詠唱を開始、薙ぎ払うような無差別攻撃が始まる。
えぐられた石畳を蹴り、雷の間を縫って接近した。
「クロエはどこ!」
「さあねえ!! とっくに野垂れ死んでんじゃない!? ゴミクズらしくねッ!!!」
マジで嫌な性格、この分だとアリアですら隙を作るための囮だったのだろう。
もう、ここで終わらせる!!
「はああぁ――――――――ッ!!!」
渾身の右ストレートがシルカの顔面を捉えた。
「ばッ......!?!?」
盛大に吹っ飛んだ彼女は家屋に突っ込み、周囲へ瓦礫を撒き散らした。
「今のは、こないだアンタが壁にして入院した魔導士の分よ」
レンジャーになるまでに何度も鍛えたパンチ、人の顔を殴ったのは初めてだからなのか、ジンジンと痛む。
「はあッ......! クソガキが生意気に――――でも良い"物"見つけちゃった」
見れば、シルカはまるで盾のようにわたしよりも年下であろう女の子の髪を掴んでいた。
「えぐっ、うっ......!」
「善良な騎士さんには最高の盾だわ! 一歩でも動いたらこれぶっ殺すわよ!」
建物に隠れていたところを巻き込んでしまったんだ、ここまで来て住民の盾とか卑怯にも程がある!
どうにかして打開しようとしたわたしは、しかし強烈な電撃に体を打たれた。
「あッ......ぐッ......!!」
「動くなっつったでしょ!? 大人しくなぶり殺してやるからさあ」
電撃で体がうまく動かない......、下手に出てもあの娘が危ない。
「ここまでね騎士さん、これからゆっくりといたぶって......」
「――――殺せるかしらね?」
瞬間、シルカの頭が酒瓶でかち割られた。
崩れる彼女の後ろに立っていたのは、1人のキャットピープル。
「ナーシャさん!? まだ街に残ってたんですか!?」
「一応ね......、この惨状だからずっと隠れてたけど。王国軍の攻勢と聞いて戦いに加わろうと思ったの」
ナーシャさんは自警団の団長にして魔導士だ、いてくれれば大変心強い。
でも――――
「ナーシャさん、その娘を守ってあげてくれませんか?」
「えっ!? 良いけどこいつは?」
「大丈夫です、シルカはわたしが倒します」
ナーシャさんは二つ返事で頷くと、すぐさま女の子を連れて距離を取った。
「なんだろう......これ」
さっき食らった電撃が、まだ抜けずに体内を走り回っている。
体はもう自由なのに、不思議な感覚だった。
「この......ッ! 亜人如きがあああッ!!」
血の流れる頭部を押さえたシルカが、再び魔法を展開。
照準をわたしに向けて撃ち放った。
広場が吹き飛ぶ猛撃を走り抜け、わたしは大きく飛んだ。
「魔法も使えない騎士が! そのまま炭になって消えろ!!!」
「はああああああぁぁぁッッ!!!!」
レベル0から本気で見返す、その一心で強くなったんだ!
体の電気を右腕に集める、浮かんだ名前は本来無縁のそれ。
けれど、なりふり構わずわたしは"その魔法"を詠唱した。
「『レイドスパーク』!!!」
膨大な電撃がシルカを包み爆発。
彼女の得意技であるはずの魔法を放ったわたしは、着地してから右手を見た。
「はぁっ......、なんでシルカの魔法が?」
初めて撃った魔法に疑問を覚えた時、上から透き通った声が響いた。
「派手にやってくれてるわね、王国軍」
「ミーシャ!?」
屋根上に立っていたのは、ナーシャさんの妹、列車を襲撃したキャットピープルの少女であるミーシャ・センチュリオン。
「ミーシャ!! なんでこんなことを!」
ナーシャさんが叫ぶ。
「姉さん! もうわたしたちは十分我慢した、これ以上村の皆が死ぬ前にこの世の中を変える!!」
「その方法がこれなの!? もっと別のやり方だって――――」
「口じゃバカな自治政府は動かない! 今日ここで、ヤツらに一泡吹かせる!!」
気づけばミーシャだけに留まらず、数え切れないほどのネロスフィア構成員が包囲していた。
最悪の状況、けれど、希望は直後に訪れた。
「ここにおったかテロリスト共、寄ってたかって攻めるとはあまり関心できぬぞ」
「いい機会じゃねえか、まとめて殲滅するぞ!」
アルマ・フォルティシア中佐、そして空挺部隊の面々が包囲を外側から食い破ったのだ。
「ティナ・クロムウェル! おぬしはあのわからず屋に喝を入れてやれい、他の敵は全てわしらが引き受けた!」
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