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上級魔導士だろうと関係ない!

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 【ヴィザード職】、それは冒険者の誰もが頼り、憧れる存在。
 高火力魔法はモンスターを焼き払い、仲間を救う。冒険者パーティーの中枢と言っても良い職業だ。

「『ファイアボール』!!」

 路地裏で発生した闇ギルド員との戦闘。
 取り巻きの魔導士が、初級火炎魔法のファイアボールを放ってきた。
 間髪いれず地面を蹴ったわたしは、針の隙間を縫うように駆けると、一気に接近。

「はああッ!!」

 1人に軍隊格闘の回し蹴りを正面から叩き込み、返す刀でもう片方の魔導士のみぞおちへ拳を打ち込んだ。
 魔導士は近接戦に弱いので、距離を詰めれば素手でも十分対応可能。

「ガッ......!?」

 でも、予想に反して聞こえたのは女性の声。
 倒れた魔導士を見れば、わたしが殴った2人は10代後半の女性魔導士、厚手のローブとフードで体格や顔も隠されていたのだ。

「あらあら、女の子にそんな乱暴するなんて、騎士って怖いわー!」

 あいつ......、まさかこの人たちも最初から使い捨てる気で!?
 レベルは変わったけど中身は当時の、わたしを使い捨てた当時とまるで変わってない。

 これがシルカの本性、あいつにとって人は消耗品に過ぎない!
 外れたファイアボールによって焦げた石壁を背に、わたしはシルカへ正対した。

「でもまあやってくれるじゃないか、まさか捨てたはずのゴミクズが税金泥棒になって、あたしらの家を潰すなんてねえ!」

 シルカの手にバチバチと稲妻が走る、間違いない、魔力規模からファイアボールとは比にならない上位魔法。
 全速で回避行動を取る。

「『レイドスパーク』!!!」

 路地裏を構成する建物が吹っ飛び、暴れ狂う雷が石畳を粉々に砕いた。
 1年前よりもさらに強力になった魔法は、砂塵と共にわたしたちを賑わう大通りに引きずり出していた。

「なっ、なんだ!?」
「きゃああ――――――――!!!」
「にっにげ、逃げろおッ――!!」

 日常を破られた人たちが、蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う。
 最悪だ! あんなのを何度も放たれたら被害はきっと計り知れない。

「やっちゃった......、これじゃ路地裏に誘った意味ないわね。まあいいわ」

 シルカは再び手に魔力を集める。
 まだ民間人がたくさん残ってるのに......!

「シルカッ! ここは大通りよ! こんなところで上位魔法なんか使ったら大変な被害が――――」
「そんなの知ったこっちゃないよ! わたしにはもう失うものなんて無いんだ、なら奪うだけ奪うに決まってるじゃない!!」

 狂ってる......、こんなやつと一時とはいえ仲間だったなんて......。
 シルカは高位魔法すら操る上級冒険者だ、以前のわたしは指一本触れられず彼女に倒された。

 でも今は違う、王国軍騎士として、無関係の人々だけは守らないといけない。それがわたしの責務だから。

「わたしのクラスレベルは56、お前みたいな雑魚がかなう相手じゃないのよ!!」
「やってみなきゃ――――――――わかんないでしょッ!!!」

 シルカの正面に魔法陣が出現し、閃光が瞬いた。
 わたしは足を踏み出す、意を決し、上位魔法を放たんとするシルカへ突っ込もうとした瞬間だった。

「吹き飛べッ! レイド――――ッ!!?」

 照準をわたしへ向けていた魔法陣が、木っ端微塵に砕けたのだ、その様は、まるでガラスのように。

「なッ!! なにが!?」

 動揺するわたしとシルカ。
 その間へ、流麗な黒髪の少女が舞い降りた。

「こんにちはお姉さん、この人今日からわたしのペアなんだ。手を出すのはやめてくれるかな?」

 わたしと同じ王国軍の制服、振り向いた少女は純黒の瞳をこちらへ向けた。

「おまたせティナ、遅れちゃってごめん」
「クロエっ!?」

 さっきの音で気づいてくれたんだ! でも、クロエがいかに徽章持ちとはいえ、まだ状況は油断ならなかった。

「何っ? 今の......まあいいわ。無駄飯食らいが一匹増えたところで逆転なんかしないわよ、さっきの魔法は集中力を切らしただけ、上級職のエリートであるわたしには勝てないってこと教えたげる」
「上位魔法職ね......、今の立場にすがりついたって、自分の本当の価値って計れないよ」
「ッッ!! ガキにはまだ早いのよ!『レイドスパーク』!!」

 再び閃光が瞬く。

 だが、クロエは唐突に落ちていた瓦礫を拾うと、足を踏み込み、魔法陣を展開したシルカへ思い切り投擲した。
 一瞬、何が起きたのかわたしも分からなかった。でも確実に言えるのは、豪速球で投げられた瓦礫は魔法陣を粉々に砕いていたということ。

「バカなッ!! 魔法陣が!?」

 投擲で魔法陣を破壊するなんて初めて見た。
 記憶の奥、朝に聞いたクロエの演習内容を思い出す。
 彼女は――――

「ストラトスフィア王国陸軍、第1アンチマジック大隊所属、クロエ・フィアレス。悪いけど、わたしに魔法は通じないよ」

 アンチマジック大隊、それはわたしも噂には聞いていた。
 対魔導士の切り札であり、属する者はレンジャー騎士と並んで精鋭と言われる騎士ばかりだ。

「魔法はわたしが砕くから、ティナはあいつにお灸を据えてやって」
「――――了解ッ」

 わたしは一気に踏み出した。弾幕のような雷魔法を一気に強行突破。
 クロエの掩護で再び魔法陣が割られたと同時、シルカとの間合いをあっという間に詰めた。

「闇ギルド、ヴィザード職のシルカ! あなたを拘束します!」

 腕を掴み、そのまま地面へ押し倒すと、わたしはシルカを上から抑え込むようにして腕をガッチリ固めた。

「あなたたちのしたことを、わたしは絶対に許さない。もうこれ以上被害者は出させないわ!」
「ッ......!! あんた、この一年でどれだけ......。何者なのよ!?」

 前回と全く逆のシチュエーション、石畳に押し付けられ、目だけを向けるシルカに、わたしは改めて名乗った。

「ストラトスフィア王国軍、レンジャー騎士ティナ・クロムウェル。あなたたち闇ギルドを葬る王国の剣よ」

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