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23.我が輩は石である。異世界を論じる石である。

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 才能を潰すのは、他者では無く自身である。
 我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

 生前の我が輩は、自身の才能に見合った世界を認められなかったが故に「異世界に転生したら石でした」等という、売れもしない漫画タイトルの如き時間を過ごしているわけであるが、こうして死後、己の人生と向き合えるなど、何という幸福で有ろうか。
 他の死後を経験していないので、何とも言えないが。

 少なくとも、我が輩の提唱している『万物魂存在論』に基づけば、他人の死後を観ていることに繋がるのかもしれない。
 例えば、あの木々の魂も、生前は人間の魂であったかもしれない。
 さらには、あの大きな狼の様な魔物も、どうように前々々世では人間だったのかもしれない。
 魂だけは、平等に存在し、魂だけは平等に巡っているのだ。
 きっと我が輩の魂も、巡る機会に出会えることだろう。
 悠久の時の果て、この地獄を抜け出す頃には。

 さて。
 ここまで蛇足的に自らの才能を潰した話に終始してしまったが、考察すべきは、魔法の才についてであった。
 まず、魔法のエネルギーに関しては、創造神という存在があるこの世界に於いて大きな差など存在しないはずである。
 にも関わらず、諸姉諸兄諸君の目にする作品には、必ず天才が現れる。
 何かしらの苦労をしている、していない、勘違いしている、井の中の蛙等々問わず、必ずである。
 何故、魂のエネルギーは平等で有るはずなのに、天才が現れるのであろうか?
 主人公の場合、必ず自らが前世の記憶のあるチート存在であると独白して物語りが始まるので、天才とは別として考える。
 今回考察していくのは、自らチートであると独白をしていない天才達についてである。

 単純に創造者のやっかみである。

 元も子もないので、この説は放棄しよう。
 もとい。
 万物魂存在説に基づくと、単純に器の差であると仮定できる。
 では、何故神は器に差を付けているのであろうか?
 それは、神が器をデザインするときに、人間の中にも種別を付けているから、と考えられないだろうか。
 つまり、タダの人間、ホブ人間、天才人間、凡人人間、頑丈人間、非力人間などに分類が出来る。
 これを、現在は「職業」として分類しているわけだ。
 人間の才能の差を、始めから「種族の亜種」として考えれば「天才」という亜種が存在しても不思議では無い。

 ここまでの結論として「天才とはただの種族である」と仮定してはどうだろうか?
 そう考えると、自分を「天才」と自称する人間の滑稽さが、理解しやすくないだろうか。
 ホブゴブリンがゴブリン相手にイキっている。
 メタルスライムがタダのスライムにマウントとっている。
 人狼が子犬相手に「俺の方が上の存在だ」とご高説垂れている。
 この程度の存在が「異世界の天才」である。
 そういう「種族」と考えると、なるほど、総じて「天才」という存在が役に立たなくなる理由が見えてくる。
 別種族への偏見主義者に過ぎなくなるからだ。

 この理論を正解とするなら、我が輩の異世界論に『人間才能種族論』が提唱出来そうである。
 即ち「この世界の人間全ては、人の皮を被った別々の存在である」と言うことだ。
 生前の世界では成立しない論法であるが、ここは異世界である。
 前世の常識に捕らわれていては、世界の考察など出来ようはずも無い。

 我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

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