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16.我が輩は石である。神を考察する石である。

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 神の存在を否定していながら地獄に堕ちた途端手のひらを返した。
 我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

 さて、この世界の全ては魂が根幹にある、と我が輩は定義した。
 そしてそれは、この世界の神と呼ばれる存在もまた、魂を持つ存在であると仮定している。
 現在我が輩が存在しているこの世界は、生前の世界とは別、ダーウィンの進化論とは一線を画す存在である。
 生物も、物体も、皆等しく、神の生み出した「ジオラマ」に過ぎず、そこに動力源である魂が入ることにより、世界は動いている。

 魂は、器の動力源である。

 我が輩のこの結論は、また一つの仮説を生み出した。
 ここまで我が輩は、魂と器は別であると仮定してきた。
 そうでなければ、説明の付かない事案が多くあったからであるが、次に考え始めたのは、何故別である必要があるのか、という疑問であった。
 仮に、神が肉体を作ったとして、わざわざ魂と別にするなど、手間では無いか。
 肉体に定着させれば、そのままでよい。
 肉体が滅べば魂も一緒に滅べば良い。
 滅びてしまえば、消滅してしまえば、朽ち果ててしまえば、別段、天国も地獄も必要ないではないか。

 何故、魂は別にしなければいけなかったのか。
 それは、魂とは、世界の根幹を司るエネルギーのようなものだからではないか、と我が輩は推察した。
 言語化するのは少々難儀であるので、例え話にしてみたい。
 例えば電気を思い起こしてみる。
 発電の条件はさておき、発電された「電気」というエネルギーは、「器」の活動に欠かせない。
 電球、空調、冷暖房等、形は違えど、電気という根幹が無ければ動かない。
 この世界において「魂」も同じようなものではないか、と考えた。
 器を動かすエネルギー。
 ただし、新しく生み出される事が稀なエネルギー。
 器が壊れたら、また別の器に再利用されるエネルギー。
 つまり、神にとっての、都合の良い「永久機関」のエネルギー源が、魂である。
 そう考えると、我が輩のような愚劣な存在は、再利用の仕様もなく、石にして放置する、というのは最善の手段であろう。

 我が輩は石である――否、まだこの考察は終われまい。

 この魂論であれば、当然神にも魂があるはずだ。
 その神の魂はどこからやってくるのか?

 なるほど、神もまた、別の神に作られた、と考えれば、合点が行く。
 それをずっと繰り返した先が、原初の神になるのだろう。
 果てしない話である。

 さて、この仮定は中々愉快な話である。
 我が輩の感じた、どこかへと導かれた魂。
 その中のどれかが、神の器に入ったとしよう。
 この世界は、創造神の考えた、ジオラマの世界である、と我が輩は仮定している。
 創造神となった神は、この世界の物質、生物、魔物、人間、大自然の営みに至るまで、ジオラマの部品一つ一つに丁寧に作り上げ、魂を吹き込み、調和のとれた世界を動かし、管理している。
 準備段階でどれほどの手間と時間を掛けたことか。
 そしてこの後も、どれほどの時間を掛けて世界を見つめ続けることであろうか。
 いくらあがめ奉られても、人間の尺度では御免被りたい程の、膨大な時間であろう。

 そう考えれば、我が輩が石になったことも必然であろう。
 人と接することでさえ煩わしかったのだ。
 異世界の創始者の立場など、とても務まるとは思えない。

 我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

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