16 / 29
16.我が輩は石である。神を考察する石である。
しおりを挟む神の存在を否定していながら地獄に堕ちた途端手のひらを返した。
我が輩は石である。名前など有るわけが無い。
さて、この世界の全ては魂が根幹にある、と我が輩は定義した。
そしてそれは、この世界の神と呼ばれる存在もまた、魂を持つ存在であると仮定している。
現在我が輩が存在しているこの世界は、生前の世界とは別、ダーウィンの進化論とは一線を画す存在である。
生物も、物体も、皆等しく、神の生み出した「ジオラマ」に過ぎず、そこに動力源である魂が入ることにより、世界は動いている。
魂は、器の動力源である。
我が輩のこの結論は、また一つの仮説を生み出した。
ここまで我が輩は、魂と器は別であると仮定してきた。
そうでなければ、説明の付かない事案が多くあったからであるが、次に考え始めたのは、何故別である必要があるのか、という疑問であった。
仮に、神が肉体を作ったとして、わざわざ魂と別にするなど、手間では無いか。
肉体に定着させれば、そのままでよい。
肉体が滅べば魂も一緒に滅べば良い。
滅びてしまえば、消滅してしまえば、朽ち果ててしまえば、別段、天国も地獄も必要ないではないか。
何故、魂は別にしなければいけなかったのか。
それは、魂とは、世界の根幹を司るエネルギーのようなものだからではないか、と我が輩は推察した。
言語化するのは少々難儀であるので、例え話にしてみたい。
例えば電気を思い起こしてみる。
発電の条件はさておき、発電された「電気」というエネルギーは、「器」の活動に欠かせない。
電球、空調、冷暖房等、形は違えど、電気という根幹が無ければ動かない。
この世界において「魂」も同じようなものではないか、と考えた。
器を動かすエネルギー。
ただし、新しく生み出される事が稀なエネルギー。
器が壊れたら、また別の器に再利用されるエネルギー。
つまり、神にとっての、都合の良い「永久機関」のエネルギー源が、魂である。
そう考えると、我が輩のような愚劣な存在は、再利用の仕様もなく、石にして放置する、というのは最善の手段であろう。
我が輩は石である――否、まだこの考察は終われまい。
この魂論であれば、当然神にも魂があるはずだ。
その神の魂はどこからやってくるのか?
なるほど、神もまた、別の神に作られた、と考えれば、合点が行く。
それをずっと繰り返した先が、原初の神になるのだろう。
果てしない話である。
さて、この仮定は中々愉快な話である。
我が輩の感じた、どこかへと導かれた魂。
その中のどれかが、神の器に入ったとしよう。
この世界は、創造神の考えた、ジオラマの世界である、と我が輩は仮定している。
創造神となった神は、この世界の物質、生物、魔物、人間、大自然の営みに至るまで、ジオラマの部品一つ一つに丁寧に作り上げ、魂を吹き込み、調和のとれた世界を動かし、管理している。
準備段階でどれほどの手間と時間を掛けたことか。
そしてこの後も、どれほどの時間を掛けて世界を見つめ続けることであろうか。
いくらあがめ奉られても、人間の尺度では御免被りたい程の、膨大な時間であろう。
そう考えれば、我が輩が石になったことも必然であろう。
人と接することでさえ煩わしかったのだ。
異世界の創始者の立場など、とても務まるとは思えない。
我が輩は石である。名前など有るわけが無い。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
新人神様のまったり天界生活
源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。
「異世界で勇者をやってほしい」
「お断りします」
「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」
「・・・え?」
神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!?
新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる!
ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。
果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。
一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。
まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる