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9.我が輩は石である。天動説を見る石である。

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 朝日が昇り、雲が流れ、太陽は沈み、夜がくる。
 ふと、月が複数存在すると気付く。

 我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

 地平線やら水平線を観察すれば、今我が輩の存在する世界は衛星であると確信が出来るのであろうが、生憎石の身では望むべくもない。
 共に冒険してくれるような相方もいない。

 さて、我が輩の存在する世界は果たして星なのか、はたまた全く別の世界なのか。
 考察するに、月という存在が、結論を促してくれたようだ。
 銀河と考えられる世界なら、星の位置はかわるのだろう。
 この世界も、太陽は東から昇り、西に沈む。月は東から登り、西に沈む。
 太陽は一つしか無いが、月は、それぞれの形が順に登る。
 満月、半月、三日月、新月、が。
 そして、繰り返し登る位置は北にも南にもずれることは無かった。
 これはこの世界は地動説ではなく、天動説で構築されていることを示している。
 世界の果ては隔絶されているのか、はたまた無へと繋がるのか。
 惜しむらくは、我が輩に確かめる術は存在しないということか。
 これもまた、この地獄の醍醐味であろう。
 いくら思考を重ねても、検証することが出来ないのだ。
 机上の空論ならぬ、石上の空想、である。

 嗚呼、このようなことならば。同じ地獄の責め苦でも、せめて肉体があれば。

 生前、探求する心のまま、何もかもかなぐり捨てる勇気があれば。

 否、つまらない自己のプライドなどに、しがみついていなければ。

 持たざる者が持たざる者らしく、見苦しく持たざる者を目指していれば。

 我が輩は石である。名前など有るはずが無い。

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