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5.我が輩は石である。ただ思考するだけの石である。

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 この世界にもスライムやゴブリンがいるらしい。すぐ近くを通り過ぎたが、無論何も起こらない。
 我が輩は石である。名前などあるわけが無い。

 万物という物は普遍で有り、また不変ではない。
 このような言葉遊びなど、暇つぶしにしか成らないが、今の我が輩にはこのような遊戯に勤しむ以外に楽しみが無い。
 どうか許して欲しい。

 そういえば、我が輩の前世の教師の一人が、ギリシャ哲学とは余白の時間の産物である、と解説していた。
 まさにその通りだ、と実感する。
 思考以外に費やす時間、必然人の意識は世界の真理、哲学へと足を踏み入れていく。
 この大自然の中の摂理へと、意識を向けていくしか無いのである。

 まず、我が輩の疑問は自己に向けた。
 魂の存在だ。
 不可視なものにして、確かに存在する。
 否、存在しなければ、我が輩の今の状態は説明が付くまい。
 魂は存在している。
 異世界への転生、これは魂があるが、前世の記憶の保持という現象への疑問がある。
 なぜならば、人間の記憶領域は、脳にのみ存在する、というのが科学的な見地のはずだからだ。
 しかしながら、我が輩は今、思考している。
 脳という部位が無い、無機質な石であるにも関わらず、思考しているのだ。
 脳のみが記憶領域であるという科学的根拠は、今現時点の我が輩には当てはまらない。

 元来、人間の脳はその能力の数割しか開放していなかったというのだから、いつか解明するのかもしれないが、開放に必要なのは魂とのリンクだったりするのだろうか?
 それこそ、眉唾物の伝説、伝承に出てくる物語の英雄や怪物に肩を並べる挑戦をしなければならないだろう。
 魂だけの存在である我が輩が、このような哲学もどきに興じていられるのだから、人間の限界というものこそ、まやかしでは無かろうかと感じる。
 同時に、肉体こそが縛りなのであるとも実感する。
 肉体が石という物質になった今だからこそ、肉体は枷であり、自由なのだ。

 我が輩は石である。名前などあるはずがない。
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