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1.我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

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 我が輩は石である。

 名前などあるわけが無い。

 私の言葉に目にしている諸姉諸兄諸君。
 異世界転生に夢を見て、何者にもなれず、くだを巻いている同類たちよ。

 我が輩の様になるな。

 この戒めとして、この言葉を記すものである。



 異世界に転生する。
 それは必ずしも良いものではないが、昨今、諸兄等の目にする物語は、友情努力勝利が約束された物語であろう。
 当然だ、我が輩も成功が約束された物語ではないとストレスを感じる。
 また自信が夢見るイケメンとの欲望にまみれた否純愛物語を作品に載せる諸姉らも多く居ることだろう。
 尤もなことだ。主人公に自分の願望を投影することは多々ある。
 我が輩もそうだった。
 これは面白いと思いながら作品を作ったのに、自慰行為に過ぎないと指摘される諸子諸兄たちもまた、数多星の如く居ることだろう。
 そして、その段階にすら届かず、夢を追いかけるという体の良い言葉に浸かり、人生を棒に振った存在。

 我が輩である。

 夢を追いかけるという魔法の言葉で現実を直視せず、親の臑をかじり、
 自分より優れている他者を根拠無く見下し、
 子供の頃の小さな成功体験にしがみつく陳腐で幼稚なプライドにしがみつき、
 自己のアイデンティティを崩されると勘違いし、親の言葉に耳を貸さず、
 コミュ障という言葉を使い他人との会話から逃げ出し、
 直接反撃されない保証が付いたインターネットの世界でだけ正論という名の揚げ足取りを繰り返す似非正義の使者気取りで、
 何一つ成すことなく、
 何者にも成ることもなく、
 振りかざせる実績の栄光すらないまま、
 普通に働くことも拒否し、
 生活保護を申請して失敗し、
 自暴自棄の果て、
 俺を認めないこの世界が悪いんだという極度に都合の良い自己完結の考えに至り、
 こんなに不幸な俺様は、自殺をすれば素晴らしい異世界転生ライフが送れるに違いないと本気で考えた、
 クズ中のクズ。

 我が輩である。

 さて。
 死んだ後の話をしよう。
 我が輩は、魂となった。
 肉体が死亡したにも関わらず、己の意志が存在しているのだから、これは魂と定義するしかない。

 我が輩の魂は、何者にも出会わなかった。
 異世界へ導く女神も居なければ、天国へ誘う天使も居ない。
 地獄にたたき落とす悪魔も鬼も、閻魔大王にも出会わない。
 三途の川なるものすら、有ったか定かでは無い。
 我が輩の魂は、ただ何処までも、堕ちていた。

 信じる宗教を持つ諸子諸兄諸君の為に一つ付け加えておこう。
 我が輩以外の魂は「堕ちて」いなかった。
 様々な方角へ「導かれていた」のだ。
 それが宗教の言うところの、天国やら極楽やらへの道なのか、はたまた異世界への道なのか。
 それは、分からない。
 ただ無宗教を気取り、死んだらただの土に還るだけと宣っていたクセに、死んだ後には異世界が待っているという、自己破綻した理論を至極正当な言い分であると、本気で信じて疑いもしなかった我が輩の魂だけが、何処まで堕ちていた。

 そして、我が輩は、石になった。

 ハッキリ言おう。

 我が輩は、地獄に堕ちたのだ。

 我が輩は石で有る。名前など有るわけが無い。

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