神様自学

天ノ谷 霙

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9月19日 はぐれた彼女

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明はアイスとメロンパンを買い、私は飲み物を買った。明が歩きながら食べれる、と言ったので、マナーは悪いが他のところも見て回るために歩くことにした。
すると人混みの中に、見たことのある人影を見つけた。
「あ、竜夜くんだ」
「本当だ。…紗奈は?」
「多分人混みに埋れてるんだろうけど…見当たらない、かな」
紗奈は身長が低い方である。一方、竜夜くんは高めである。そのため、竜夜くんと並ぶと30cmくらい差が出来る。
「ん?あ、稲森と水奈月!ちょっと手伝ってくれ!」
少し焦ったような表情に驚いたが、私達は竜夜くんの近くに行く。周りを見ても、いるはずの紗奈は見当たらなかった。なんとなく、察した。
「紗奈が見当たらないんだ!探すの手伝ってくれないか?」
「…どこではぐれたの…?」
「2年5組のアトラクションを遊んだ後くらい…いつの間にかいなくなってて…」
「連絡は?したの?」
「あ、してない」
竜夜くんは相当焦っているようだ。慌てて携帯を取り出して電話をかけてみるも、この人混みじゃ自分の携帯が鳴っても気付かないだろう。振動で気付くかどうか、といったところだ。案の定、竜夜くんは落胆した様子で携帯を耳から離した。
「…駄目だ…繋がらないって…」
「…それは、心配だね…」
明が竜夜くんに話を合わせているが、そんなに慌てることだろうか。確かに紗奈は可愛いし、夏の旅行でも危なかったが、今は文化祭中。学校だ。学校の外に連れ出そうとしたら校門の近くで受付をやっている生徒会にバレるし、校内で何かしても高確率でバレる。さっきから視界の端でよく見かける由芽が、情報収集が捗る、と生き生きしているのが見えていたからだ。小さい子供とかには特に目を光らせているようで、はぐれたらしい子供とよく話しているのが見えた。
「…本当…どうしよう…心当たり探して行き違いになるのも困るし…どこ行ったんだ…」
普段ケンカップルみたいなのに、こういう時に本気で心配するあたり、本当に紗奈が大好きなんだな、という気持ちが伝わってきた。だから何も言わなかった。後ろにオレンジがかった髪を持つ、小柄な眼鏡をかけた女の子が来ていることを。
「いって!?」
竜夜くんの太ももあたりを蹴飛ばす女の子、紗奈。手元ではジュースを2本抱えている。
「飲み物買ってくるって言ったじゃん!お前返事したよなぁ!?」
どうやら、紗奈がいなくなってから10分くらいだったらしい。ここから自販機まで少し遠いし人混みの中なので、帰ってくるのが遅れたようだ。しかも紗奈はしっかり要件を言って返事まで確認していたらしい。
「えっ嘘!?知らない!」
「嘘じゃない。何2人に迷惑かけてんのよ!」
「紗奈…?大丈夫だよ…?」
「わぁあっごめ、ごめんなさいってば!」
騒がしい2人を見ていたら、自然と笑みがこぼれてきた。その時、一般公開終了を告げる放送が鳴り響いた。
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