神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
215 / 812

言ノ葉に従って

しおりを挟む
「すまない、その辺に腰掛けてくれ」
「は、はい」
いつの間にか張本人は王子のそばの椅子に腰掛け、姫とフェイが座るソファの目の前に王子も座りました。姫とフェイは緊張した面持ちで、まっすぐと王子を見つめました。隣にいる男が少し気になるようでした。
「えっと…貴女は異国の方かな。見たことのない顔だが」
「あ、はい。ルスと申します」
「俺は、フェイです」
「…眠っていたら、いつの間にかこちらに迷い込んでいたようです。帰り方を、王子様なら知っているのではないかと言われ、ここに来ました」
「なんだ。あの人に言ノ葉を聞いてはいないんですか?」
姫の説明に、口を開いたのは王子の隣にいる隣の男でした。残念そうに呟く男に、王子が聞き返します。
「言ノ葉?」
「多分、聞きました。あの…"異国の民  帰路もそこに現るる"ですよね?」
「お、聞いてますね。それは最後の方ですけど。ちゃんと最初から最後まで言うと、

"汝の運勢 凶に有り  今日こんにち 異国の民ここに参らん  異国の者の口付け 汝の運勢変えるだろう  ここに迷いし異国の民  帰路もそこに現るる"

ですね」
「あっ、はい。それです」
占いの運勢を言うような、呪詛を言うような、不思議で怪しく、惹きつけられるような言ノ葉でした。王子はその言の葉を初めて聞いたらしく、首を傾げていました。そんな王子を横目でチラッと見た後、男はにこっと笑って姫に向き合いました。
「汝っていうのはこの国の王子ですね。つまりこの人」
そう言って男は、王子を手で示しました。
「それで異国の民は貴女。今日迷い込んで、帰路を求めて、人に話を聞いて、ここまで辿り着いた異国の民」
男は立ち上がって、唐突に姫の手を取りました。そして、その手の甲に口付けを。
「貴女があちらの世界に帰ることが、王子の運勢を凶から救う方法です。…どうか、彼を」
男の、一瞬だけした切なそうな表情を、姫は見逃しませんでした。男に何か言おうとする前に、男は王子の方を振り返って、話を変えてしまいました。
「王子、少し隣の部屋をお借りします。彼女が戻れるよう、そして王子が救われるよう祈っておきます。…そこの衛兵くん、フェイくんでしたよね。フェイくんも一緒に来てくれますか」
「えっ、は、はい」
戸惑った様子で、フェイは男の後をついて行き、隣の部屋に。残された姫と王子は互いに顔を見合わせました。
「えっと…」
「すまぬ、あぁいうやつだ。昔からの付き合いでも分からない。あいつの行動は読めない」
「…あの人は、その、失礼ですが、どちら様でしょうか」
「あぁ、隣国の王子だよ。あれの国とこの国の国境は緩くてな。小さい頃から遊んでいた幼馴染というやつだろうか」
「おさな、なじみ…」
姫はそう呟いた後、何かを思い出したように慌てた様子で話を続けました。
「呪いをかけた本人というのは…」
「あぁ、それもあいつだよ」
王子の言葉に、姫は言葉を続けることが出来ませんでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...