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言ノ葉に従って
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「すまない、その辺に腰掛けてくれ」
「は、はい」
いつの間にか張本人は王子のそばの椅子に腰掛け、姫とフェイが座るソファの目の前に王子も座りました。姫とフェイは緊張した面持ちで、まっすぐと王子を見つめました。隣にいる男が少し気になるようでした。
「えっと…貴女は異国の方かな。見たことのない顔だが」
「あ、はい。ルスと申します」
「俺は、フェイです」
「…眠っていたら、いつの間にかこちらに迷い込んでいたようです。帰り方を、王子様なら知っているのではないかと言われ、ここに来ました」
「なんだ。あの人に言ノ葉を聞いてはいないんですか?」
姫の説明に、口を開いたのは王子の隣にいる隣の男でした。残念そうに呟く男に、王子が聞き返します。
「言ノ葉?」
「多分、聞きました。あの…"異国の民 帰路もそこに現るる"ですよね?」
「お、聞いてますね。それは最後の方ですけど。ちゃんと最初から最後まで言うと、
"汝の運勢 凶に有り 今日 異国の民ここに参らん 異国の者の口付け 汝の運勢変えるだろう ここに迷いし異国の民 帰路もそこに現るる"
ですね」
「あっ、はい。それです」
占いの運勢を言うような、呪詛を言うような、不思議で怪しく、惹きつけられるような言ノ葉でした。王子はその言の葉を初めて聞いたらしく、首を傾げていました。そんな王子を横目でチラッと見た後、男はにこっと笑って姫に向き合いました。
「汝っていうのはこの国の王子ですね。つまりこの人」
そう言って男は、王子を手で示しました。
「それで異国の民は貴女。今日迷い込んで、帰路を求めて、人に話を聞いて、ここまで辿り着いた異国の民」
男は立ち上がって、唐突に姫の手を取りました。そして、その手の甲に口付けを。
「貴女があちらの世界に帰ることが、王子の運勢を凶から救う方法です。…どうか、彼を」
男の、一瞬だけした切なそうな表情を、姫は見逃しませんでした。男に何か言おうとする前に、男は王子の方を振り返って、話を変えてしまいました。
「王子、少し隣の部屋をお借りします。彼女が戻れるよう、そして王子が救われるよう祈っておきます。…そこの衛兵くん、フェイくんでしたよね。フェイくんも一緒に来てくれますか」
「えっ、は、はい」
戸惑った様子で、フェイは男の後をついて行き、隣の部屋に。残された姫と王子は互いに顔を見合わせました。
「えっと…」
「すまぬ、あぁいうやつだ。昔からの付き合いでも分からない。あいつの行動は読めない」
「…あの人は、その、失礼ですが、どちら様でしょうか」
「あぁ、隣国の王子だよ。あれの国とこの国の国境は緩くてな。小さい頃から遊んでいた幼馴染というやつだろうか」
「おさな、なじみ…」
姫はそう呟いた後、何かを思い出したように慌てた様子で話を続けました。
「呪いをかけた本人というのは…」
「あぁ、それもあいつだよ」
王子の言葉に、姫は言葉を続けることが出来ませんでした。
「は、はい」
いつの間にか張本人は王子のそばの椅子に腰掛け、姫とフェイが座るソファの目の前に王子も座りました。姫とフェイは緊張した面持ちで、まっすぐと王子を見つめました。隣にいる男が少し気になるようでした。
「えっと…貴女は異国の方かな。見たことのない顔だが」
「あ、はい。ルスと申します」
「俺は、フェイです」
「…眠っていたら、いつの間にかこちらに迷い込んでいたようです。帰り方を、王子様なら知っているのではないかと言われ、ここに来ました」
「なんだ。あの人に言ノ葉を聞いてはいないんですか?」
姫の説明に、口を開いたのは王子の隣にいる隣の男でした。残念そうに呟く男に、王子が聞き返します。
「言ノ葉?」
「多分、聞きました。あの…"異国の民 帰路もそこに現るる"ですよね?」
「お、聞いてますね。それは最後の方ですけど。ちゃんと最初から最後まで言うと、
"汝の運勢 凶に有り 今日 異国の民ここに参らん 異国の者の口付け 汝の運勢変えるだろう ここに迷いし異国の民 帰路もそこに現るる"
ですね」
「あっ、はい。それです」
占いの運勢を言うような、呪詛を言うような、不思議で怪しく、惹きつけられるような言ノ葉でした。王子はその言の葉を初めて聞いたらしく、首を傾げていました。そんな王子を横目でチラッと見た後、男はにこっと笑って姫に向き合いました。
「汝っていうのはこの国の王子ですね。つまりこの人」
そう言って男は、王子を手で示しました。
「それで異国の民は貴女。今日迷い込んで、帰路を求めて、人に話を聞いて、ここまで辿り着いた異国の民」
男は立ち上がって、唐突に姫の手を取りました。そして、その手の甲に口付けを。
「貴女があちらの世界に帰ることが、王子の運勢を凶から救う方法です。…どうか、彼を」
男の、一瞬だけした切なそうな表情を、姫は見逃しませんでした。男に何か言おうとする前に、男は王子の方を振り返って、話を変えてしまいました。
「王子、少し隣の部屋をお借りします。彼女が戻れるよう、そして王子が救われるよう祈っておきます。…そこの衛兵くん、フェイくんでしたよね。フェイくんも一緒に来てくれますか」
「えっ、は、はい」
戸惑った様子で、フェイは男の後をついて行き、隣の部屋に。残された姫と王子は互いに顔を見合わせました。
「えっと…」
「すまぬ、あぁいうやつだ。昔からの付き合いでも分からない。あいつの行動は読めない」
「…あの人は、その、失礼ですが、どちら様でしょうか」
「あぁ、隣国の王子だよ。あれの国とこの国の国境は緩くてな。小さい頃から遊んでいた幼馴染というやつだろうか」
「おさな、なじみ…」
姫はそう呟いた後、何かを思い出したように慌てた様子で話を続けました。
「呪いをかけた本人というのは…」
「あぁ、それもあいつだよ」
王子の言葉に、姫は言葉を続けることが出来ませんでした。
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