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9月1日 泣き止んだら
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泣き止んだ利羽ちゃんが落ち着くまで、別の話をして時が経つのを待っていた。携帯が鳴っていたのに気付かなくて、由芽からのメッセージが何件も届いていたことは、後で謝りに行く。
「…それでね、夕音ちゃん」
「利羽、夕音ちゃんじゃなくて夕音、でしょ」
「あ、そうだった。まだ慣れないわ」
話している途中で、私が名前呼びに変えることを言い出した。利羽ちゃんは「友達を下の名前で呼ぶのって緊張するわ…」と言いながら、たどたどしく私を下の名前で呼ぶ練習をしてくれた。私はそれが嬉しくて、笑顔になる。すると、利羽もつられてか笑顔になる。たったそれだけなのに、凄く嬉しかった。
「そろそろ大丈夫。戻ろうか」
そう言って利羽は立ち上がった。利羽の表情は、図書室で一番最初に見た諦めた笑顔じゃなくて、心からの笑顔だった。
私は利羽の言葉に返事を返して、教室に戻った。
「…ゆ、う、ねぇ…?」
教室の扉を開けると、何人かの生徒が音に反応してから振り向く。私達だと分かると、自分の作業に戻る生徒が大半だった。しかし、唯一由芽だけは、私達の方に近付いて来た。とても怖い笑顔で。私は反射的に頭を下げた。
「「ご、ごめんなさいぃいいい!!」」
「…いや、なんで利羽ちゃんも謝ってるのよ」
由芽の冷静なツッコミを聞いて顔を上げると、利羽は首を傾げてこちらを見ていた。数秒の沈黙の後、私達は顔を見合わせて笑った。
「もう、心配したんだからね」
「ごめんって。なかなか見つからなくて焦ってて、頭から抜け落ちてた」
「おい」
私と由芽はやり取りをしているうちにだんだん笑えてきた。つられて利羽も笑う。
「もうそろそろ帰れってさっき先生が来たから、片付けたら一緒に帰ろうよ」
「了解。利羽も大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ」
「よし、じゃあ片付けますか」
布やらダンボールの破片やらがたくさん落ちている。それを袋に突っ込んで、ささっとほうきで床を掃いて、袋を教室の隅の方に置いておく。途中から来たクラスメイトも手伝ってくれた。
「こんなもん?」
「だね」
「じゃあ帰りますか」
リュックを背負うと、由芽が、あっと言った。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと自販機寄りたいなって思って」
「あ、私も行きたい」
「私も」
そして私達は、下駄箱からは少し離れてしまうけれど、自販機に寄ってそれぞれ好きな飲み物を買った。
「由芽ちゃんは紅茶?」
「うん、なんかミルクティーが飲みたくて」
そんな話をしながら、私達はいつも通りの道を帰った。
「…それでね、夕音ちゃん」
「利羽、夕音ちゃんじゃなくて夕音、でしょ」
「あ、そうだった。まだ慣れないわ」
話している途中で、私が名前呼びに変えることを言い出した。利羽ちゃんは「友達を下の名前で呼ぶのって緊張するわ…」と言いながら、たどたどしく私を下の名前で呼ぶ練習をしてくれた。私はそれが嬉しくて、笑顔になる。すると、利羽もつられてか笑顔になる。たったそれだけなのに、凄く嬉しかった。
「そろそろ大丈夫。戻ろうか」
そう言って利羽は立ち上がった。利羽の表情は、図書室で一番最初に見た諦めた笑顔じゃなくて、心からの笑顔だった。
私は利羽の言葉に返事を返して、教室に戻った。
「…ゆ、う、ねぇ…?」
教室の扉を開けると、何人かの生徒が音に反応してから振り向く。私達だと分かると、自分の作業に戻る生徒が大半だった。しかし、唯一由芽だけは、私達の方に近付いて来た。とても怖い笑顔で。私は反射的に頭を下げた。
「「ご、ごめんなさいぃいいい!!」」
「…いや、なんで利羽ちゃんも謝ってるのよ」
由芽の冷静なツッコミを聞いて顔を上げると、利羽は首を傾げてこちらを見ていた。数秒の沈黙の後、私達は顔を見合わせて笑った。
「もう、心配したんだからね」
「ごめんって。なかなか見つからなくて焦ってて、頭から抜け落ちてた」
「おい」
私と由芽はやり取りをしているうちにだんだん笑えてきた。つられて利羽も笑う。
「もうそろそろ帰れってさっき先生が来たから、片付けたら一緒に帰ろうよ」
「了解。利羽も大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ」
「よし、じゃあ片付けますか」
布やらダンボールの破片やらがたくさん落ちている。それを袋に突っ込んで、ささっとほうきで床を掃いて、袋を教室の隅の方に置いておく。途中から来たクラスメイトも手伝ってくれた。
「こんなもん?」
「だね」
「じゃあ帰りますか」
リュックを背負うと、由芽が、あっと言った。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと自販機寄りたいなって思って」
「あ、私も行きたい」
「私も」
そして私達は、下駄箱からは少し離れてしまうけれど、自販機に寄ってそれぞれ好きな飲み物を買った。
「由芽ちゃんは紅茶?」
「うん、なんかミルクティーが飲みたくて」
そんな話をしながら、私達はいつも通りの道を帰った。
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