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虹との別れ
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話し合いを終えた私達は、ようやく今必要なことを終えた。稲荷様と私の和解も、否守様が求めた結末も、虹様の罪と羅樹の清算も、全部。
「夕音様」
虹様に声を掛けられる。その顔はスッキリしているようで、そして何処か申し訳なさそうな様子だった。
「私の役目はここで終わりになります。夕音様に力が戻り、帰りは私より道の使い慣れた稲荷がいますから、私が居なくても帰れるでしょう」
来た時と同じように、虹様に連れられて帰るつもりだったのだが、どうやら違うらしい。稲荷様は私達の世界の仕事を放る形でこっちに来ているようで、一刻でも早く戻れるならば戻るべきなんだそうだ。行きに虹様が弄った気の流れはもう元に戻っており、協力してくれたカサマは既に通信が戻っている。そしてその道は、稲荷様が此方の世界と彼方の世界どちらでも役目が果たせるように作られたものであり、つまりは管理者に近い立場。管理者がいるのならばヒトを連れていても問題ないらしく、私と羅樹はそのまま渡れるようだ。
「私は罪有し者。それもとびきり禁じられたヒトに手を出した者。役目という枷もなくヒトの世には出向けません。だからここでお別れです、夕音様」
「…!」
人のお別れと神の別れは違う。またねと言えば明日会えるように、神と会えるとは限らない。更に言えば虹様は罪のせいでヒトの世には降りられない。ヒトの寿命も鑑みれば、これが最後というわけだ。
「……せっかく、虹様のことを知れたのに」
「えぇ、私も夕音様のことを知れて良かった」
虹様はくすりと笑った。
「ヒトをヒトとして一括りに扱って、その端を少し摘み上げるつもりで行動しておりましたから。貴方というヒトを知って、私の行動がどれだけ愚かだったのか思い知りました。私が稲荷を案ずるように、貴方を案ずる者がいると初めて学びました」
「虹様…」
「悲しい顔を、なさらないで。私はそれを知れただけでも大きな成長だと思いますし、これから償うべき罪に真正面から向き合えます。それは全て、貴方のおかげですよ、夕音様」
虹様は微笑んだまま、羅樹に顔を向ける。羅樹は複雑そうな顔をしていたが、虹様は構わず笑う。
「羅樹様、私の罪を覚えていてくださると、決して許さないと言ってくださいましたね。そんな貴方に今から行うこれはとても不快でしょうが、それも罪の一端として数えてくださいませ」
そう言った虹様は、また私を見つめて額を合わせた。
"貴方に 流れ行く気の 幸福があらんことを"
虹様を象徴するような緑の光が溢れ、私の体を包み込んだ。
それは、地位を失い行く神の、最後の加護だった。
「夕音様」
虹様に声を掛けられる。その顔はスッキリしているようで、そして何処か申し訳なさそうな様子だった。
「私の役目はここで終わりになります。夕音様に力が戻り、帰りは私より道の使い慣れた稲荷がいますから、私が居なくても帰れるでしょう」
来た時と同じように、虹様に連れられて帰るつもりだったのだが、どうやら違うらしい。稲荷様は私達の世界の仕事を放る形でこっちに来ているようで、一刻でも早く戻れるならば戻るべきなんだそうだ。行きに虹様が弄った気の流れはもう元に戻っており、協力してくれたカサマは既に通信が戻っている。そしてその道は、稲荷様が此方の世界と彼方の世界どちらでも役目が果たせるように作られたものであり、つまりは管理者に近い立場。管理者がいるのならばヒトを連れていても問題ないらしく、私と羅樹はそのまま渡れるようだ。
「私は罪有し者。それもとびきり禁じられたヒトに手を出した者。役目という枷もなくヒトの世には出向けません。だからここでお別れです、夕音様」
「…!」
人のお別れと神の別れは違う。またねと言えば明日会えるように、神と会えるとは限らない。更に言えば虹様は罪のせいでヒトの世には降りられない。ヒトの寿命も鑑みれば、これが最後というわけだ。
「……せっかく、虹様のことを知れたのに」
「えぇ、私も夕音様のことを知れて良かった」
虹様はくすりと笑った。
「ヒトをヒトとして一括りに扱って、その端を少し摘み上げるつもりで行動しておりましたから。貴方というヒトを知って、私の行動がどれだけ愚かだったのか思い知りました。私が稲荷を案ずるように、貴方を案ずる者がいると初めて学びました」
「虹様…」
「悲しい顔を、なさらないで。私はそれを知れただけでも大きな成長だと思いますし、これから償うべき罪に真正面から向き合えます。それは全て、貴方のおかげですよ、夕音様」
虹様は微笑んだまま、羅樹に顔を向ける。羅樹は複雑そうな顔をしていたが、虹様は構わず笑う。
「羅樹様、私の罪を覚えていてくださると、決して許さないと言ってくださいましたね。そんな貴方に今から行うこれはとても不快でしょうが、それも罪の一端として数えてくださいませ」
そう言った虹様は、また私を見つめて額を合わせた。
"貴方に 流れ行く気の 幸福があらんことを"
虹様を象徴するような緑の光が溢れ、私の体を包み込んだ。
それは、地位を失い行く神の、最後の加護だった。
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