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8月22日 姫と騎士
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「お前、見たことのない顔だな。この城に何の用だ」
「気づいたらここに来ていたの。帰る方法を教えて貰えないかと思って」
「信用ならぬ。誰だろうとここで斬れば同じこと」
「そんな!」
姫役の由芽が、怯えたような、震える声を出す。霙は由芽を、騎士は姫を睨みつけた。そして、数秒後。多分演技をしていれば斬りかかる直前、姫の叫び声が周りに響き渡った。騎士は驚いたのか、黙ったまま数秒。先に口を開いたのは、姫だった。
「私は、貴方のお城に用はないわ。貴方が帰り道を案内してくれるなら、城にだって入らない。少しでも帰る手がかりを見つけるために、大きな建物に向かおうと思っただけだから」
姫の真剣な瞳。台本を読んでいるだけで、演技なんてしていないのに声だけで緊迫した雰囲気が伝わって来る。2人は、さっき少し台本を読んだだけで表情も、気持ちも、声も作れてしまうのだ。私はそれを、改めて感じた。
「…そうか。斬りかかってすまない。最近、魔女が迷ったふりをして王子に呪いをかけたのだ。それにより、少し警戒しすぎた。申し訳ない」
「大丈夫よ。そう、そんな事情があったなら仕方ないわ。私もタイミングが悪かったわね。それより、王子様は大丈夫なの?」
「あぁ、まだ身体に害は出ていないようだ。しかし、魔女の呪いは身体を蝕む。いつまでも呪われたままには出来ぬ。だから私は呪いをとく方法を探していたのだ」
「そうなのね。じゃあ私も協力するわ」
「…え?」
「王子様の呪いをとく方法を探すのでしょう?私も手伝うわ。だから、それが終わったら私が帰る方法を探すのを手伝ってくれない?」
「…わかった。頼む」
霙は台詞を言い終えると、私達の方に体を向けた。
「台本読みはこんな感じ」
「何か質問はある?なければ一旦ここで台本読みに戻ろうか。それで大丈夫そうなら、動きの説明をするからね」
霙も由芽も、なんてことないようにいつもの口調に戻って説明をし始めた。私達は思わず拍手をしてしまい、霙と由芽が驚いたような表情を浮かべたあと、互いに顔を見合わせて、はにかむように笑った。
「それじゃあ、私達がやったのは姫と騎士だけだから、個人的にわからないのがあったら聞いてね」
「霙先生が演技して見せてくれるよー」
「やめろ!ハードルを上げるな!」
「まぁ演技するかはわからないけど、聞いてくれれば答えるから」
「じゃあ練習、再開してね」
霙の声で、皆一斉に動き出す。私は利羽ちゃんのもとに駆け寄り、一緒に練習をしないか誘った。利羽ちゃんは微笑みながら頷いた。そして私は、利羽ちゃんと向き合って台本を開いた。
「気づいたらここに来ていたの。帰る方法を教えて貰えないかと思って」
「信用ならぬ。誰だろうとここで斬れば同じこと」
「そんな!」
姫役の由芽が、怯えたような、震える声を出す。霙は由芽を、騎士は姫を睨みつけた。そして、数秒後。多分演技をしていれば斬りかかる直前、姫の叫び声が周りに響き渡った。騎士は驚いたのか、黙ったまま数秒。先に口を開いたのは、姫だった。
「私は、貴方のお城に用はないわ。貴方が帰り道を案内してくれるなら、城にだって入らない。少しでも帰る手がかりを見つけるために、大きな建物に向かおうと思っただけだから」
姫の真剣な瞳。台本を読んでいるだけで、演技なんてしていないのに声だけで緊迫した雰囲気が伝わって来る。2人は、さっき少し台本を読んだだけで表情も、気持ちも、声も作れてしまうのだ。私はそれを、改めて感じた。
「…そうか。斬りかかってすまない。最近、魔女が迷ったふりをして王子に呪いをかけたのだ。それにより、少し警戒しすぎた。申し訳ない」
「大丈夫よ。そう、そんな事情があったなら仕方ないわ。私もタイミングが悪かったわね。それより、王子様は大丈夫なの?」
「あぁ、まだ身体に害は出ていないようだ。しかし、魔女の呪いは身体を蝕む。いつまでも呪われたままには出来ぬ。だから私は呪いをとく方法を探していたのだ」
「そうなのね。じゃあ私も協力するわ」
「…え?」
「王子様の呪いをとく方法を探すのでしょう?私も手伝うわ。だから、それが終わったら私が帰る方法を探すのを手伝ってくれない?」
「…わかった。頼む」
霙は台詞を言い終えると、私達の方に体を向けた。
「台本読みはこんな感じ」
「何か質問はある?なければ一旦ここで台本読みに戻ろうか。それで大丈夫そうなら、動きの説明をするからね」
霙も由芽も、なんてことないようにいつもの口調に戻って説明をし始めた。私達は思わず拍手をしてしまい、霙と由芽が驚いたような表情を浮かべたあと、互いに顔を見合わせて、はにかむように笑った。
「それじゃあ、私達がやったのは姫と騎士だけだから、個人的にわからないのがあったら聞いてね」
「霙先生が演技して見せてくれるよー」
「やめろ!ハードルを上げるな!」
「まぁ演技するかはわからないけど、聞いてくれれば答えるから」
「じゃあ練習、再開してね」
霙の声で、皆一斉に動き出す。私は利羽ちゃんのもとに駆け寄り、一緒に練習をしないか誘った。利羽ちゃんは微笑みながら頷いた。そして私は、利羽ちゃんと向き合って台本を開いた。
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