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伝える言葉
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1人と1柱。2つでボロボロ泣いて、抱き締めて、お互いを理解し合う。何が違う、何が分からない、何が不思議を共有して、そういう考えがあると知る。価値観を合わせるのではなく、尊重する。それはちょっぴり不快なこともあるけれど、知らないよりは断然良いのだ。それ以上に相手が好きで、大切で、側に居たいと思えるのなら。そんなちっぽけな辛さは相手といる喜びに掻き消されていつの間にか忘れているだろう。
やっと知ることが出来た。
やっと知ってもらえた。
あの人稲荷様に突き放された悲しみを、そんな判断をした稲荷様への怒りを、それでも大切だと思う慈しみを。全部伝えられた。泣いて、声に出して、抱き締めて。心が伝えるそこにあるだけの感情じゃなくて、稲荷様が伝えたいと思う気持ちと溢れる想いまで全て受け取れた。
だからもう、いいのだ。
「こういう時のこと、何ていうか知ってますか?」
「…? 知らない」
「仲直り、って言うんですよ」
「仲、直り…そうか、直ったのか。わたしは、夕音との関わりをまた、持てるのか…?」
「はい!私は稲荷様と、また一緒にいたいですよ!」
「…そうか。わたしも、一緒にいたい」
ふわりと稲の花が揺れる。まるで喜ぶように、希望に満ち溢れるように。
その姿を見ていた否守様が、こほんと咳払いをした。稲荷様と同時に顔を向けると、困ったように否守様が微笑む。
「話し合いは終えられましたか?」
「「……はいっ!」」
泣き笑いの表情で返せば否守様は頷いて、ゆっくりと姿勢を正した。私と稲荷様も抱擁を解き、真っ直ぐに否守様を見つめる。
「稲荷、貴方は自分の価値観で、決め付けて動いていました。その自覚はありますか?」
「はい。今、夕音に教えてもらって。やっと自覚しました」
「よろしい。以前貴方に問うた"過ち"は、何を指すか分かりましたか?」
「…はい。わたしは、夕音の気持ちを勝手に理解したつもりになって、それを先んじて叶えようと勝手に動き、被害者意識を持っていました。傷付けておきながら傷付けられたように振る舞い、本当は何一つ相手のことを考えられていませんでした」
「えぇ。ならば今後、どうしますか?」
「価値観は、すぐに変えられるとは思えません。けれど、行動ならば。決め付けるのではなく、話し合おうと言いたい。話を聞いて、何処が食い違ってるのか、相手と共に考えたいと思います」
稲荷様の返答に、否守様は満足そうに頷く。その学びこそが、今回否守様が私と虹様を巻き込んでこちらに赴かせた理由なのだろう。否守様は答え合わせをするように、優しく笑った。
「実は、前に稲荷に与えた"過ち"の言は、そのことを指していました。それすらも、貴方は捻じ曲げて解釈してしまっていたけれど。どうやらやっと気付けたようで何よりです」
"また同じ過ちを辿るつもりですか"と、否守様は稲荷様に言葉を掛けた。そして過ちを「また人を不幸にする」ことだと解釈した稲荷様は、回避しようと躍起になった結果また過ちを犯してしまった。それに気付けたのは、否守様の根回しのお陰で、私の怒りの根強さのせいかもしれない。許せなくて良かったと、変なことを考えてしまう。
「虹」
「はっ」
振り向いた否守様は、虹様も呼んで稲荷様の隣に並ぶよう指示する。何だか怒られるような並び方ではあるが、否守様は優しく笑っていた。虹様の隣にリーロも座る。
「貴方達に伝えましょう。今回の締めの言葉です」
穏やかな否守様から、慈愛のような言葉が紡がれる。優しさが降る雨のようで、自然と表情が引き締まる。その言を一字一句違わず聞き取るために、ゆっくりと耳を傾けた。
やっと知ることが出来た。
やっと知ってもらえた。
あの人稲荷様に突き放された悲しみを、そんな判断をした稲荷様への怒りを、それでも大切だと思う慈しみを。全部伝えられた。泣いて、声に出して、抱き締めて。心が伝えるそこにあるだけの感情じゃなくて、稲荷様が伝えたいと思う気持ちと溢れる想いまで全て受け取れた。
だからもう、いいのだ。
「こういう時のこと、何ていうか知ってますか?」
「…? 知らない」
「仲直り、って言うんですよ」
「仲、直り…そうか、直ったのか。わたしは、夕音との関わりをまた、持てるのか…?」
「はい!私は稲荷様と、また一緒にいたいですよ!」
「…そうか。わたしも、一緒にいたい」
ふわりと稲の花が揺れる。まるで喜ぶように、希望に満ち溢れるように。
その姿を見ていた否守様が、こほんと咳払いをした。稲荷様と同時に顔を向けると、困ったように否守様が微笑む。
「話し合いは終えられましたか?」
「「……はいっ!」」
泣き笑いの表情で返せば否守様は頷いて、ゆっくりと姿勢を正した。私と稲荷様も抱擁を解き、真っ直ぐに否守様を見つめる。
「稲荷、貴方は自分の価値観で、決め付けて動いていました。その自覚はありますか?」
「はい。今、夕音に教えてもらって。やっと自覚しました」
「よろしい。以前貴方に問うた"過ち"は、何を指すか分かりましたか?」
「…はい。わたしは、夕音の気持ちを勝手に理解したつもりになって、それを先んじて叶えようと勝手に動き、被害者意識を持っていました。傷付けておきながら傷付けられたように振る舞い、本当は何一つ相手のことを考えられていませんでした」
「えぇ。ならば今後、どうしますか?」
「価値観は、すぐに変えられるとは思えません。けれど、行動ならば。決め付けるのではなく、話し合おうと言いたい。話を聞いて、何処が食い違ってるのか、相手と共に考えたいと思います」
稲荷様の返答に、否守様は満足そうに頷く。その学びこそが、今回否守様が私と虹様を巻き込んでこちらに赴かせた理由なのだろう。否守様は答え合わせをするように、優しく笑った。
「実は、前に稲荷に与えた"過ち"の言は、そのことを指していました。それすらも、貴方は捻じ曲げて解釈してしまっていたけれど。どうやらやっと気付けたようで何よりです」
"また同じ過ちを辿るつもりですか"と、否守様は稲荷様に言葉を掛けた。そして過ちを「また人を不幸にする」ことだと解釈した稲荷様は、回避しようと躍起になった結果また過ちを犯してしまった。それに気付けたのは、否守様の根回しのお陰で、私の怒りの根強さのせいかもしれない。許せなくて良かったと、変なことを考えてしまう。
「虹」
「はっ」
振り向いた否守様は、虹様も呼んで稲荷様の隣に並ぶよう指示する。何だか怒られるような並び方ではあるが、否守様は優しく笑っていた。虹様の隣にリーロも座る。
「貴方達に伝えましょう。今回の締めの言葉です」
穏やかな否守様から、慈愛のような言葉が紡がれる。優しさが降る雨のようで、自然と表情が引き締まる。その言を一字一句違わず聞き取るために、ゆっくりと耳を傾けた。
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