神様自学

天ノ谷 霙

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稲森夕音

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稲森夕音が恋使コイツカイとなったのには、理由がある。
一つは、生まれつき備わっていた神力。
何の因果か天女神アマノメガミと呼ばれる世界を統べる神、否守いなもりと同じ音、同じ容姿を持って生まれて来た。それに比例するように、彼女は力を秘めていた。
一つは、その力を感じ取り宿った伏見ふしみ 恋音こいねの存在。
かつて稲荷の恋使として支えていた存在は、人の身を忘れて使となった。人との衝突により仲を違え、力を失い、蓄えるための依代として夕音を選んだ。神からすれば瞬きの間だが、人からすれば長い時間をその中で過ごした。呪いすらも毒として解ける彼女が、長く宿っていた。
元々持っていた力。それを受け止めるための器が恋音の存在で急激に広げられ、しかし視界を塞がれたことで無意識的に命の危機を脱した。神力の貯蔵庫はヒトならざるモノの興味をそそるが、本人に目も耳もなければ奪うのに障りが出る。一方的な奪取は簡単そうに見えて、その実無意識的な抵抗を介するため難度が上がるのだ。視覚と聴覚による屈服がある方が、奪うには易い。そして奪おうとする存在には恋音の抵抗があったのだから、夕音の貯蔵庫は溜まる一方だった。恋音はその貯蔵庫から力を吸い上げるが、彼女は一介の使である。ヒトの身であった記憶と同時に、否守と同じ色であった事由も失った。
力はあれど、神力自体が生命力となる存在では貯まる量が違う。
血を生命力の源とする人にとっては、使う必要のない夕音にとっては、神力の貯蔵庫はただただ埋まるだけだった。
偶然か必然が組み上げた夕音という存在は、否守が"強すぎる"と称するほどに力を蓄えていた。
まるで、此方のモノと同じように。
力を失えば眠る───澪愛みおうの女達を宿した時のように。
言葉を発することなく力を用いる───夢の中で羅樹への想いとの決別を拒んだように。
少しずつ増えていた。少しずつ強めていた。夕音の力は、稲荷が見た時よりも大きく成長していた。神の力を借りなくとも、神の力を1人で抑えられるくらいに。ヒトならざるモノを説得するための道筋を、全て自身の力で賄ってしまうほどに。夕音という存在は、大きな力を蓄えていた。
神に与えられたいろを、自分のものに塗り替えるくらいに。
赤と金と桃と空。混ざり合うそれらは独特で、それでいながら美しい。描いたそれは、稲荷の側で爆発的に開花した。豊穣を司る神の下で、花を咲かせる力が咲き誇った。
恋心に触れる度に咲いていた花、心に寄り添うように咲く花の存在。
それは恋音にはない力。

最初から夕音が持っていた、彼女だけの神力が開花した証だったのだ。
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