神様自学

天ノ谷 霙

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覗いた心

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先程まで見ていた稲荷様の記憶が、増幅されて再び私の中に流れ込んでくる。稲荷様の思考や言葉、行動の意図が、私と離れたあの日からの全てが、恋音こいねさんとのあれこれが、私の選択に関わらず雪崩のように積み込まれていく。混乱するほどの情報量にも関わらず私が私を保てたのは、直前に流し込まれた緩やかで温かな否守いなもり様の力故だろう。一つ一つの記憶を神力で保護し、私の脳回路を壊さぬよう優しく注ぎ込んでいく。それなのに私は情報を見落とすことなく記録していけるのだから、神という存在の大きさと格の違いを思い知った。
「そろそろ落ち着きましたか。さぁ、夕音。貴方が代わりに答えて頂戴」
記憶の奔流を泳ぎ切った私の顔を上に向かせ、否守様がそっと言う。合わさった目の奥から逃げ切れない本能的な屈服感を抱いて、私はただ固まった。
「稲荷は、貴方が覗いた稲荷の心は、何を過ちと定めていたの」
言葉尻が上がって疑問のていを保っているのに、その言葉は断定的で逆らえない。答えないという選択肢が握り潰されたかのようで、考える間もなく唇が言葉を紡いだ。
「稲荷様は、"わたしがヒトの運命を縛り、ヒトとしての幸せを奪う"ことを過ちと定め、ヒトとしての幸せを掴んだ私が、ヒトでないモノとの縁の中に生きることがないよう、私を、
「なっ、違う!私は夕音を捨ててなどっ!」
自然と溢れた言葉は、酷く強烈で。考えていなかった筈の言葉が出てきたことに驚きが隠せない。けれどもっと驚いたのは稲荷様のようで、慌てて修正しようとしたが否守様に視線で遮られた。
「お前がどう思っていようと、夕音に伝わらなかったことが事実。そしてその結果が今です。夕音は虹の力を借り、ヒトの身でありながらこちらの世にやって来てしまった。私の介入があるからこそヒトとしての形を保っていますが、本来ならば命などとうに失せていたでしょう」
重い事実がのしかかる。私はもしかしたら、私の命が尽きてでもここに来てしまったかもしれないから。無鉄砲に近い私の怒りは、私の命を守るべきものに換算してくれないから。その事実に私が気付いたのだから、羅樹も思い至った筈だ。もしかしたら私が思っている以上の結末を想像してしまったかもしれない。否守様の視線がズレた隙にちらりと横目で見れば、リーロが荒い息を整えていた。先程羅樹が暴れ出した時から、ずっと抑え込んでいたようだ。
ふと引っ張られるようにして。私の視線がまた否守様とかち合う。
「全てを言の葉に。夕音が稲荷に抱いた言葉を全て曝け出しなさい。稲荷へ、その情をぶつけなさい」
「私、私は…」
解放された私の目が、真っ直ぐと稲荷様に向いて。
先程解放した激情が、不意に舞い戻って来た。
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