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願いの話 稲荷
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ふっと、か細い糸が繋いでいた唯一の繊維を切るように。わたしと夕音の繋がりは、簡単に解けた。
これでいい。
これがいい。
そうじゃなきゃまた夕音とわたしの縁が濃くなって、夕音としての運命が捻じ曲がってしまうから。
だから夕音が学校に行く際に、伏見を呼び寄せた。夕音と親和して回復していたこともあり、とうとう伏見は誰かの側に居らずとも力を発揮出来るくらいになっていた。側に呼び寄せ、夕音とわたしの繋がりを少しずつ絶っていく。夕音の周りにはたくさんのヒトがいるから、わたし達との縁が切れても誰かが支えてくれる筈。ヒトはか弱き生き物故に、感情というものでお互いを理解し合い、助け合うことで生きる種族であるから。夕音は1番大切な者と心を交わしたし、わたしは恋を知ることが出来た。だからわたしと夕音の運命はここで終わり。悲しんでくれたら嬉しいけれど、いつだって前を向けた夕音ならわたしを忘れて進んでくれる筈だから。
天女神様も仰っていた。同じ過ちを繰り返すつもりなのかと。わたしがヒトの運命を縛り、ヒトとしての幸せを奪うつもりなのかと。そうしない。今度は間違えない。わたしはあの子の幸せを願っている。ヒトとしての幸せを掴めたあの子の幸せを、永遠に願っている。
"その幸せは、わたしの側では持ち得ない"
わたしは側に居て欲しいけど、夕音の幸せにわたしの存在は邪魔だ。わたしの世界に招くことは、夕音の幸福を奪い取るに等しい。ヒトとして生きる夕音の生命を、こちら側に縛り付けて喪失させることと同義だから。
だからわたしは諦める。
笠間に良いのかと問われ、伏見に不安そうな瞳で見られようとも。わたしはわたしの心より、優先すべきものがある。
"夕音が幸せであるならば、その隣に居るのはわたしでなくて構わない"。
誰かの言にわたしの言葉が重なる。
『夕音が笑顔でそこにいてくれるなら、僕のことを好きじゃなくたって構わないから』
これは、誰の言葉だったか。今のわたしと同じ意図が紡がれているようだ。そしてわたしの耳は、この先の言葉を知っている。その懇願にも似た切望が、何よりも優先すべき願い事だと、わたしは知っている。同じ気持ちを抱いたから。同じ言葉を望んだから。わたしは夕音に、同じ願いを掛けたから。
『───だから、苦しまないで』
これでいい。
これがいい。
そうじゃなきゃまた夕音とわたしの縁が濃くなって、夕音としての運命が捻じ曲がってしまうから。
だから夕音が学校に行く際に、伏見を呼び寄せた。夕音と親和して回復していたこともあり、とうとう伏見は誰かの側に居らずとも力を発揮出来るくらいになっていた。側に呼び寄せ、夕音とわたしの繋がりを少しずつ絶っていく。夕音の周りにはたくさんのヒトがいるから、わたし達との縁が切れても誰かが支えてくれる筈。ヒトはか弱き生き物故に、感情というものでお互いを理解し合い、助け合うことで生きる種族であるから。夕音は1番大切な者と心を交わしたし、わたしは恋を知ることが出来た。だからわたしと夕音の運命はここで終わり。悲しんでくれたら嬉しいけれど、いつだって前を向けた夕音ならわたしを忘れて進んでくれる筈だから。
天女神様も仰っていた。同じ過ちを繰り返すつもりなのかと。わたしがヒトの運命を縛り、ヒトとしての幸せを奪うつもりなのかと。そうしない。今度は間違えない。わたしはあの子の幸せを願っている。ヒトとしての幸せを掴めたあの子の幸せを、永遠に願っている。
"その幸せは、わたしの側では持ち得ない"
わたしは側に居て欲しいけど、夕音の幸せにわたしの存在は邪魔だ。わたしの世界に招くことは、夕音の幸福を奪い取るに等しい。ヒトとして生きる夕音の生命を、こちら側に縛り付けて喪失させることと同義だから。
だからわたしは諦める。
笠間に良いのかと問われ、伏見に不安そうな瞳で見られようとも。わたしはわたしの心より、優先すべきものがある。
"夕音が幸せであるならば、その隣に居るのはわたしでなくて構わない"。
誰かの言にわたしの言葉が重なる。
『夕音が笑顔でそこにいてくれるなら、僕のことを好きじゃなくたって構わないから』
これは、誰の言葉だったか。今のわたしと同じ意図が紡がれているようだ。そしてわたしの耳は、この先の言葉を知っている。その懇願にも似た切望が、何よりも優先すべき願い事だと、わたしは知っている。同じ気持ちを抱いたから。同じ言葉を望んだから。わたしは夕音に、同じ願いを掛けたから。
『───だから、苦しまないで』
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