神様自学

天ノ谷 霙

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2つの関係

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時の神に礼を告げて、私達はその場を後にする。いよいよ稲荷様の元へ向かう、そう考えると体の中心がうるさく跳ねた。
「…心配、ですか?」
「え?」
「…稲荷は臆病で、優しい子ですから。だから、全部取り返しがつかなくなる前に突き放したんだと思うんです。その行動こそが他を、夕音様を傷付けるとは気付けなかったんです」
虹様の方を向くと、困ったような笑みを浮かべているのが見えた。いつか稲荷様が、虹様のことを想って私に理解を求めた時と、同じような顔だった。
「夕音様は、稲荷が何を司っているかご存知ですか?」
「えぇと、聞いたことあるような…」
ないような。なんて誤魔化していると、虹様がくすりと笑って教えてくれた。
「稲荷が司るのは"豊作"です。ヒトが生きる源となる食物を、土地を、豊かにする力です。逆に奪い取り搾り取ることも出来ますが、上に命じられない限り稲荷はしないでしょう」
「…優しい、から?」
繰り返すように問い掛ければ、虹様はまた困ったような表情をする。ふるりと緩く首を横に振って、優しく微笑んだ。
「それもありますが、稲荷の力は影響範囲が曖昧すぎるんです。天候を司るわけではない。作物を荒らす動物を操れるわけでもない。けれど自然に干渉しヒトに干渉する。無意識の行使で十分、強いんです。だから力を振るうことを嫌う。誰かを強制することを嫌う。出来れば自由であって欲しいと、願ってしまうんです。稲荷は」
そう言って遠くを見つめる瞳には、優しく穏やかな光が灯っている。私の知らない2柱の絆は、きっとヒトの姉妹のように深くて、友人よりも理解していて、だからこそ少し離れたり近付いたりを繰り返して、けれど決して切れないものなのだと思い至った。きっと私と稲荷様の絆よりも深くて、どうしたって離れられない。相手が禁忌を犯そうとも、いつまでも同じ過ちを繰り返していたとしても、きっと見捨てることなんて出来ない。
その繋がりがどうしようもなく羨ましいけれど、私と稲荷様ではきっとそうなることは出来ないから。
それでも、近付くことは出来るのだろう。怒って、泣いて、貴方のそういうところが羨ましくて、そういうところが良くないのだと面と向かって言える、友人くらいには。
神と人という、差のある関係だけれど。使つかいと主という関係を、解消した仲だけれど。
それでも私は、そのことを許せなくて、対等でいたくて叫んだのだから、関係を切りたくなくてここまで来たのだから、もう後は伝えるしかない。
貴方のことを諦めきれなくてここまで来たのだと、馬鹿な人間を笑ってもらうためにここまで来たのだと、私はそう叫ぶんだ。
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