神様自学

天ノ谷 霙

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3月27日 連絡と話

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カサマは可哀想な程に震えていた。無理もないだろう。主人との連絡を遮断され、その上で主人よりも上の立場の者が目の前にいるのだから。
『夕音様が来たら知らせるように連絡でも受けていたか?』
虹様の言葉にびくりと肩を震わせるカサマ。虹様は特に威圧しているつもりはないのだろうが、カサマは卒倒しそうな程に顔を青白く染めている。私は困った顔を浮かべながら、成り行きを見守っていた。
『い、いいえ…っ!ゆ、ゆゆ、夕音、しゃまはっ、もうヒトの幸せを手に入れたのだからっ、私達が関わる必要はないと、おっしゃ、言って、おりまし、たっ!』
噛んだりつっかえたり間違えたり、一つの情報を喋るだけでも大変そうだ。それだけ神の世界における序列というものは恐ろしいのだろう。私は使つかいという立場で結構いろんな神に物申して来た自信があるが、今更ながらに申し訳なくなって来た。人の分際でと切り捨てられてもおかしくなかったかもしれない。機会があったら謝ろう。無い方が嬉しいが。
『なるほど。やはりアレは言葉が足りん上に、慮ったつもりで他の心を決め付ける。あのヒトの子との一件で直ったかと思えば、根深いな』
「ヒトの子…って恋音こいねさんですか?」
知っているのかと驚いて聞けば、虹様はすぐに頷いた。
『はい。この任を賜る際に、天女神アマノメガミ様から話は聞いております。夕音様が解決に奔走したと。アレの不徳の致すところ、代わって謝罪申し上げます』
「い、いえそんな…っ」
とても丁寧に接してくれる虹様にドギマギしていると、それを見たカサマが更に顔色を悪くしている。もはや瞳からも色が抜けるのではないかという程に真っ白だった。
自身の主人より上のモノが、敬うような丁寧な態度を一貫しているヒトがいる。
これは確かに恐ろしい。ヒトの身分も分からなければどうしてそんな態度を取っているのかも分からないのに、質問するには自身の身分が足りなすぎる。困惑は恐怖に変わり、ただただ震えるしかないだろう。少しでも解ければ、と説明じみた話を付け加える。
「虹様は稲荷様の代わりに私を護衛してくださって、感謝しております。稲荷様に力を全て閉ざされたのは唐突な話で、それを知らないモノに狙われる可能性がありますから。かつての贖罪とはいえ、ここまで来られたのも虹様のお陰です。どうか、言葉も気にせず」
『いえ、そんな。私の恩人ですし禊ですから。罪過の自覚の為にもお許しください』
私の話でカサマは少し理解出来たらしい。未だ混乱した様子だったが、飲み込めた部分もあったようでホッと息を吐いていた。
落ち着いたようなので、話を再開させてもらおうと口を開く。
カサマには申し訳ないが、もう少しだけ胃のキリキリするような時間を続けさせてもらうことにした。
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