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8月11日 ”恋”と”好き”
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「…稲森さんは、好きな人いるの?」
別の場所に向かって歩き始めると、夏川さんから話題を振ってくれた。私は嬉しくなったが、話題が話題だったので少し照れくさかった。
「そうだね。いるよ」
私の答えに、夏川さんは少し俯いた。何と話を繋げるべきか分からなくて戸惑っていると、夏川さんが口を開いた。
「アタシ、”好き”って気持ちが分からないの」
「”好き”が、分からない?」
夏川さんは悲しそうに笑って、私の質問に答えた。
「うん。『側にいたい。一緒にいて楽しい』って人はいるけど、それが恋なのか、それとも別の感情なのか分からない時期があってね。ずっと昔の話なんだけど、恋にトラウマもあって。その時に”恋”って感情を見失っちゃって。それからずっと、分からないんだ」
夏川さんの瞳から、雫が1滴こぼれ落ちた。さっきまで蒸し暑かった風が、少しだけ冷たくなって通り過ぎる。私は、空を見上げた。
「なら、単純に考えちゃえば良いんじゃないかな」
「…え」
数歩前に出て、夏川さんの方を振り返る。夏川さんは足を止めて、私を滲んだままの瞳で見つめた。
「迷うんだったら、”恋”とか”好き”とかそんな言葉でまとめなくても良いと思うし。言葉でまとめる方が単純に見えるけど、人の心を言葉でまとめる方が難しいよ。だからそういうときはまとめないし、考えない」
夏川さんは、私の言葉に少しだけ頷いた。それでも表情が晴れないから、私は少しだけヒントを。
「じゃあ考えてみて。その側にいて楽しい人が、他の女子と一緒にいて笑ってる。それを見たとして、どう思う?」
「…嫌だ!」
夏川さんの心が、こぼれた。考える時間なんてほとんどない即答だった。声も、いつもより大きかった。それほどまでに想っているのだろう。
「それが、夏川さんの本心だよ」
夏川さんの胸を指差して、私はいたずらっぽく笑う。
「やきもち。その人が好きじゃなかったらそんなこと思わない。友達だと思ってる人が他の異性と歩いてたからって、そんなに必死になるはずがないもの」
夏川さんの顔が赤く染まっていく。私はそれを見てふふっと笑った。
「おーい、夕音ー!夏川さーん!」
遠くから紗奈の声が聞こえた。私は「はーい」と返事をする。すると、夏川さんが私の袖をくいっと引っ張った。
「爽、で良い。爽…が良い」
目線を少しそらしながら、まだ赤い頬を見せないように顔を背けながら、そう呟く。可愛かった。
「分かった」
私はそう返事をして、爽に向き直る。手を伸ばして、笑顔で言う。
「行こう、爽」
爽が少しだけ目を見開いて、微笑む。
「うん」
爽の手を取って、走り出す。
夏の風が、私達の服を揺らしていった。
別の場所に向かって歩き始めると、夏川さんから話題を振ってくれた。私は嬉しくなったが、話題が話題だったので少し照れくさかった。
「そうだね。いるよ」
私の答えに、夏川さんは少し俯いた。何と話を繋げるべきか分からなくて戸惑っていると、夏川さんが口を開いた。
「アタシ、”好き”って気持ちが分からないの」
「”好き”が、分からない?」
夏川さんは悲しそうに笑って、私の質問に答えた。
「うん。『側にいたい。一緒にいて楽しい』って人はいるけど、それが恋なのか、それとも別の感情なのか分からない時期があってね。ずっと昔の話なんだけど、恋にトラウマもあって。その時に”恋”って感情を見失っちゃって。それからずっと、分からないんだ」
夏川さんの瞳から、雫が1滴こぼれ落ちた。さっきまで蒸し暑かった風が、少しだけ冷たくなって通り過ぎる。私は、空を見上げた。
「なら、単純に考えちゃえば良いんじゃないかな」
「…え」
数歩前に出て、夏川さんの方を振り返る。夏川さんは足を止めて、私を滲んだままの瞳で見つめた。
「迷うんだったら、”恋”とか”好き”とかそんな言葉でまとめなくても良いと思うし。言葉でまとめる方が単純に見えるけど、人の心を言葉でまとめる方が難しいよ。だからそういうときはまとめないし、考えない」
夏川さんは、私の言葉に少しだけ頷いた。それでも表情が晴れないから、私は少しだけヒントを。
「じゃあ考えてみて。その側にいて楽しい人が、他の女子と一緒にいて笑ってる。それを見たとして、どう思う?」
「…嫌だ!」
夏川さんの心が、こぼれた。考える時間なんてほとんどない即答だった。声も、いつもより大きかった。それほどまでに想っているのだろう。
「それが、夏川さんの本心だよ」
夏川さんの胸を指差して、私はいたずらっぽく笑う。
「やきもち。その人が好きじゃなかったらそんなこと思わない。友達だと思ってる人が他の異性と歩いてたからって、そんなに必死になるはずがないもの」
夏川さんの顔が赤く染まっていく。私はそれを見てふふっと笑った。
「おーい、夕音ー!夏川さーん!」
遠くから紗奈の声が聞こえた。私は「はーい」と返事をする。すると、夏川さんが私の袖をくいっと引っ張った。
「爽、で良い。爽…が良い」
目線を少しそらしながら、まだ赤い頬を見せないように顔を背けながら、そう呟く。可愛かった。
「分かった」
私はそう返事をして、爽に向き直る。手を伸ばして、笑顔で言う。
「行こう、爽」
爽が少しだけ目を見開いて、微笑む。
「うん」
爽の手を取って、走り出す。
夏の風が、私達の服を揺らしていった。
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