神様自学

天ノ谷 霙

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3月24日 決断

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虹様の言葉を聞いて、ふっと息を吐く。独りよがりで勝手なことだと理解していた。悪戯に他者を危険に晒す行為だと、切り捨てられる可能性もあった。けれど虹様はその奥に潜む、私の羅樹を想う気持ちを汲んでくれた。それがどれだけ嬉しくて、どれだけ救われた気持ちになれたか、きっと虹様は知らない。
けれど、それで十分なのだ。
「羅樹に、伝えに行きます。私の考えを、巻き込む覚悟を」
立ち上がって握り拳を作る。胸元でぎゅっと握り締めて目を瞑り、深く呼吸をした。どくどくと嫌な緊張に身体が張り詰めるが、思考はどこまでもクリアだ。

私は稲荷様に会って、相談もなく勝手に繋がりを解いたことを怒る。
その為に彼方の世に渡ることを、羅樹に伝える。
その上で羅樹が一緒に行くと言うのなら、私はそれを拒まない。

至極単純だ。優先順位がコロコロ変わる私には、このくらい単純でちょうど良いのだ。やることがたくさんあると、目につくもの片っ端から手を付けてしまうから。揺るぎない目標を一つ立てる、それだけでいいのだ。
『私もリーロも、夕音様の側に居ります。何かあったら声に出して呼んでいただければ』
「ありがとうございます、虹様、リーロ」
声に出して礼を言えば、2柱は微笑んでその場から消えた。
「さて、行きますか」
羅樹に伝えることを整理しながら、私は自室の扉を開いた。



どうやら羅樹の用事はもう終わっていたようで、インターホンを押せばすぐに出て来た。私が真剣な顔をしていたからか、「話したいことがある」と言えば部屋に通してくれた。羅樹のお父さんは今日、仕事の都合で帰って来ないらしい。この広い家に羅樹1人か、と思えば、今までにも何度もあったことなのに酷く悲しくなった。
「それで、話って?」
お茶を淹れたコップを2つ、私達に挟まれた机の上に用意しながら羅樹が問い掛ける。私はそっとお茶で喉を潤してから、真っ直ぐ羅樹を見つめた。
「私、稲荷様のところに行く。このどうしようもない怒りをぶつける為に、稲荷様に直接会って話に行く。そう、決めたの」
「うん」
「今日、演劇部の公演を見て。引っ掛かったこともあって。だから確かめたい。私は、稲荷様のところへ、あちらの世へ、行く」
目を逸らさず言い切れば、羅樹は小さく微笑んだ。その顔は聞き分けのない子供を見守る親のような、それでいてどうしようもなく愛しい者を見るような、そんな表情をしていた。
「うん。僕は、夕音ならその選択をするだろうって思ってたよ。だから僕は夕音を止めない。止められない」
その伏せた瞳には諦観にも似た光が宿っていて。私は動揺した。「やめなきゃ」と思うくらいには、今この瞬間の最優先に羅樹を選ぶくらいには、見たことのない羅樹の表情に焦りを感じた。
けれどそんな私の感情に制止をかけるように、羅樹はこちらを見て、優しく微笑んだ。
「でも、僕の気持ちだけは知っておいてほしいから。少しだけ、話してもいい?」
言葉の詰まった喉では何も言うことが出来ず、私は頷くことしか出来なかった。
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