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3月24日 優先事項
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私は虹様と運命を共にする約束を結んで、その後でもう一つ頼みがあると告げる。
「虹様の負担を増やすことになってしまうと思うのですが、どうしてもお願いしたいことがあって」
『何でしょう?』
「──羅樹も、一緒に連れて行きたいんです」
私の言葉に、虹様は息を呑んだ。分かっている。私が言っていることがどのくらい大変で、おかしなことかなんて。
羅樹には私のような力はない。幼馴染の私が言うのだから、ほぼほぼ確定で良いだろう。羅樹は私が消えるところを見たと証言している通り、私が"あちらの世"にいる間のことを見ることは出来ないのだ。流石に、私が消えるところを目撃して泣いたあの幼い日の姿まで演技であるとは思えないため、羅樹には私のような人ならざる力は備わっていないのだろう。
そんな相手を人ならざるモノの元に連れて行くなど、気でも狂ったかと言われかねないことだ。
それでも私は、羅樹を連れて行きたかった。羅樹が行くと言うのならば、私にそれを止める権利はないと思った。
「私、ずっと羅樹を傷付けて来たんです。羅樹が見えないこっちのことを気に掛けて、遊びに行って、そのことを全く話さないで。全然羅樹のことを考えてなかった。私が心配する側になってようやく、その不安を知ったんです。羅樹がいなくなったらどうしようって、すごくすごく怖くて。羅樹はずっとこんな思いをしてたんだって。苦しくて痛いのを、ずっとずっと我慢してたんだって、初めて知ったんです」
胸元を握り締める。心臓が冷え切るような感覚は、もう2度と味わいたくないものだ。けれど羅樹には何度も経験させた。羅樹は何度、私を見失って途方に暮れたのだろう。絶望したのだろう。私があちらの世で楽しく遊んでいる間に、羅樹は何度私の名を呼んだのだろう。
そう考えると胸が苦しくて、涙が出そうになる。
けれど、その罪滅ぼしなんかではなく。私が私であるために、この思いを言葉にしなくてはならない。
「でも、私は止まれない。私は羅樹が好きだけど、いつでも最優先には出来ない」
いつでも他人の為に怒っていると称された私は、その怒りの為に常に最優先事項が変わる。明の為や青海川くんの為、稲荷様の為、恋音さんの為。私にとって大切だと思った人の為ならば、いつだって順番は変わって来た。それがぶつかり合うならば、私はそのぶつかり合った人達みんなの為に怒るだろう。
それが羅樹の言う、夕音で、私なのだ。
「だから、譲歩したんです。私が止まれない時に、"巻き込む"ことで羅樹を1人にしないと。無理を言っているのは分かっています。力を封じられた私だけでなく、元々力のない羅樹をも連れて行くということが危険であることも。それでも、お願いします。羅樹が行きたいと言うのなら、一緒に行くことを許してほしいんです」
心の底から思いを込めて、私は虹様に頭を下げた。
「虹様の負担を増やすことになってしまうと思うのですが、どうしてもお願いしたいことがあって」
『何でしょう?』
「──羅樹も、一緒に連れて行きたいんです」
私の言葉に、虹様は息を呑んだ。分かっている。私が言っていることがどのくらい大変で、おかしなことかなんて。
羅樹には私のような力はない。幼馴染の私が言うのだから、ほぼほぼ確定で良いだろう。羅樹は私が消えるところを見たと証言している通り、私が"あちらの世"にいる間のことを見ることは出来ないのだ。流石に、私が消えるところを目撃して泣いたあの幼い日の姿まで演技であるとは思えないため、羅樹には私のような人ならざる力は備わっていないのだろう。
そんな相手を人ならざるモノの元に連れて行くなど、気でも狂ったかと言われかねないことだ。
それでも私は、羅樹を連れて行きたかった。羅樹が行くと言うのならば、私にそれを止める権利はないと思った。
「私、ずっと羅樹を傷付けて来たんです。羅樹が見えないこっちのことを気に掛けて、遊びに行って、そのことを全く話さないで。全然羅樹のことを考えてなかった。私が心配する側になってようやく、その不安を知ったんです。羅樹がいなくなったらどうしようって、すごくすごく怖くて。羅樹はずっとこんな思いをしてたんだって。苦しくて痛いのを、ずっとずっと我慢してたんだって、初めて知ったんです」
胸元を握り締める。心臓が冷え切るような感覚は、もう2度と味わいたくないものだ。けれど羅樹には何度も経験させた。羅樹は何度、私を見失って途方に暮れたのだろう。絶望したのだろう。私があちらの世で楽しく遊んでいる間に、羅樹は何度私の名を呼んだのだろう。
そう考えると胸が苦しくて、涙が出そうになる。
けれど、その罪滅ぼしなんかではなく。私が私であるために、この思いを言葉にしなくてはならない。
「でも、私は止まれない。私は羅樹が好きだけど、いつでも最優先には出来ない」
いつでも他人の為に怒っていると称された私は、その怒りの為に常に最優先事項が変わる。明の為や青海川くんの為、稲荷様の為、恋音さんの為。私にとって大切だと思った人の為ならば、いつだって順番は変わって来た。それがぶつかり合うならば、私はそのぶつかり合った人達みんなの為に怒るだろう。
それが羅樹の言う、夕音で、私なのだ。
「だから、譲歩したんです。私が止まれない時に、"巻き込む"ことで羅樹を1人にしないと。無理を言っているのは分かっています。力を封じられた私だけでなく、元々力のない羅樹をも連れて行くということが危険であることも。それでも、お願いします。羅樹が行きたいと言うのなら、一緒に行くことを許してほしいんです」
心の底から思いを込めて、私は虹様に頭を下げた。
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