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3月24日 何処かで聞いた話
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あの後、私は紗奈達からの誘いを断って家に帰っていた。自室に辿り着いて、嫌な音を立てる心臓を押さえながら座り込む。そして必死に演劇の内容を思い出す。
セイは最初からアマネを地獄に入れないようにしていた。地獄は人の叫び声や痛みが溜まっている場所であり、人の噂や憎悪が作り出したものだった。マイナスの中にマイナスは溶けるけれど、好奇心というプラスの感情を持っているアマネは溶けそうになかった。だから絶望させる為に、マイナスに均す為にセイはアマネを苦しめようとした。苦しいと思わせる為に"化かし"た。けれどアマネは最初から好奇心の為に行動しており、セイから世界の事実を知る為に"化かす"ことを選んだ。そうしてどう足掻いてもアマネを助けることが出来ないと悟ったセイは正しく絶望し、世界に溶けた。代わりにアマネが、地獄の管理者となった。
セイはアマネを化かす為に、命の終わりを仄めかして絶望を与えようとした。けれどそれは、死すら厭わず好奇心を満たしに来たアマネには効かなかった。アマネを絶望させたいなら他の方法が必要だった。
本来の目的を隠す為に行なった手段が、結局相手の為にならなかった。
本当は相手を想っているのに、伝えないで自分が最善だと思った行動を取った結果、失敗してしまった。
ふと、記憶が蘇る。何処かで聞いたことのある話。何処かで目撃したことのある話。知っている。私はこんな話を、何処かで記録したことがある。
「…恋音さんを想った、稲荷様の、話」
閃きと共に頭の中を巡った記憶は、馴れ初めから今までに至るまでの悲劇の話。恋音さんを助けようとした結果、何重にもヒトならざるモノとの繋がりが出来て、絶対に覆ることのないヒトと恋音さんの隔たりを作ってしまった。そんな昔への悔恨から記憶のない恋音さんを再びヒトの世に近付けたが、そこでも隔たりによって交わることは叶わなかった。けれど稲荷様は諦めなかった。だからヒトを怖がる恋音さんをヒトに近付け、結果的に恋音さんは「こんなに酷いことをする」「嫌われている」と稲荷様を誤解することになってしまった。
"また同じ過ちを巡るつもりですか"
否守様のあの言葉が、もし1人への執着に対してではなく、その先にあるすれ違いと悲劇のことを指していたならば。
夕音を想うが故に、何かしらの考えに則って夕音を切り離したとしたら。
罪を犯した虹様を私の元へ向かわせた理由。そしてその虹様への制限が軽い理由。前提が違うのなら、辻褄が合ってしまうことばかりだ。
あの時、目の合った否守様は、何と言っていた?
"来たのですね"
"ヒトであるにはあまりにも強すぎる"
「私は」
その強さが何を示すのか、私はもっと考えなければならないと感じた。
セイは最初からアマネを地獄に入れないようにしていた。地獄は人の叫び声や痛みが溜まっている場所であり、人の噂や憎悪が作り出したものだった。マイナスの中にマイナスは溶けるけれど、好奇心というプラスの感情を持っているアマネは溶けそうになかった。だから絶望させる為に、マイナスに均す為にセイはアマネを苦しめようとした。苦しいと思わせる為に"化かし"た。けれどアマネは最初から好奇心の為に行動しており、セイから世界の事実を知る為に"化かす"ことを選んだ。そうしてどう足掻いてもアマネを助けることが出来ないと悟ったセイは正しく絶望し、世界に溶けた。代わりにアマネが、地獄の管理者となった。
セイはアマネを化かす為に、命の終わりを仄めかして絶望を与えようとした。けれどそれは、死すら厭わず好奇心を満たしに来たアマネには効かなかった。アマネを絶望させたいなら他の方法が必要だった。
本来の目的を隠す為に行なった手段が、結局相手の為にならなかった。
本当は相手を想っているのに、伝えないで自分が最善だと思った行動を取った結果、失敗してしまった。
ふと、記憶が蘇る。何処かで聞いたことのある話。何処かで目撃したことのある話。知っている。私はこんな話を、何処かで記録したことがある。
「…恋音さんを想った、稲荷様の、話」
閃きと共に頭の中を巡った記憶は、馴れ初めから今までに至るまでの悲劇の話。恋音さんを助けようとした結果、何重にもヒトならざるモノとの繋がりが出来て、絶対に覆ることのないヒトと恋音さんの隔たりを作ってしまった。そんな昔への悔恨から記憶のない恋音さんを再びヒトの世に近付けたが、そこでも隔たりによって交わることは叶わなかった。けれど稲荷様は諦めなかった。だからヒトを怖がる恋音さんをヒトに近付け、結果的に恋音さんは「こんなに酷いことをする」「嫌われている」と稲荷様を誤解することになってしまった。
"また同じ過ちを巡るつもりですか"
否守様のあの言葉が、もし1人への執着に対してではなく、その先にあるすれ違いと悲劇のことを指していたならば。
夕音を想うが故に、何かしらの考えに則って夕音を切り離したとしたら。
罪を犯した虹様を私の元へ向かわせた理由。そしてその虹様への制限が軽い理由。前提が違うのなら、辻褄が合ってしまうことばかりだ。
あの時、目の合った否守様は、何と言っていた?
"来たのですね"
"ヒトであるにはあまりにも強すぎる"
「私は」
その強さが何を示すのか、私はもっと考えなければならないと感じた。
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