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8月10日 涙と清算
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私と北原くんは、木の影となるところで北原くんが落ち着くまで待つことにした。
「…俺、は…亜美が好きだと、思ってた…けど、来との仲を応援したいって気持ちも半分あった…前に、稲森に言われた言葉が離れなくて」
私が北原くんに言った言葉。たしか雨の日、亜美が潮賀くんと一緒に帰っていた日。北原くんの心の雨が、私に響いてきて頭が痛かった日。
「…俺は、どうするべき、なんだろう」
「…突き放すような言い方になるけど、それはもう自分で答えを出すしかないかな」
私はしゃがみこむ北原くんの頭に手をおく。
「…きっと、北原くんの心では答えが出てる。大丈夫」
北原くんなら、という言葉は飲み込んだ。その言葉は自信をつける言葉であるとともに、プレッシャーをかける言葉でもある。ぐるぐる悩んでいるときに、悩み過ぎてしまう人に、その言葉は後者の効果となってしまう。私はそう思った。
「ほら、泣き止んだ?じゃあ戻ろう。皆が待ってるよ」
私は手を伸ばして、北原くんが手を取って、羅樹が私にしてくれるように引っ張っていく。私達の足跡はもう見えづらくなってしまったけれど、さっきから聞こえる悲鳴を頼りに行けば戻れると思った。確信は無かったが、なんとなく、行けるような気がした。
「…うん、戻ろう」
さっきまで涙をこぼしていたのが嘘のように、いつも通りの表情に少し笑顔を加えて、優しい表情をしていた。
「…あ、戻ってきた」
「なんで1番最初に行ったのに、しかも悲鳴も何もあげなかったのにこんなに遅いんだよ…」
「浅野くんって意外と…苦手だったのね」
「浅野、ペアが全然平気だったからって稲森さん達に八つ当たりは良くないっすよ!」
「ちょっと迷っちゃってねー」
「ほぼ一本道だったのに」
「いや、途中で何かもふもふしたのが見えたからそっち追いかけてたら」
「肝試し関係ねぇ!?」
私達が最後だったらしく、話が盛り上がる。別荘の前で話していたからか、小野くんと、眠そうな目をした由芽が出てきた。
「おかえり。なんか良い情報あった?」
「聞いて聞いて!浅野くんがね!」
「やめろって」
利羽ちゃんが楽しそうに話すのを、蒼くんがなだめる。私はその会話を見ながら、ちらっと亜美と潮賀くんの方を見ると、晴れの気配がした。
「…良かった」
「どうしたの、夕音?」
「ううん、なんでもない」
羅樹の声に、笑顔で答える。私はほっとしたような表情をしていただろう。視界の端で、夏川さんが北原くんの異変に気付いて、問い詰めているのが見えた。
「…俺、は…亜美が好きだと、思ってた…けど、来との仲を応援したいって気持ちも半分あった…前に、稲森に言われた言葉が離れなくて」
私が北原くんに言った言葉。たしか雨の日、亜美が潮賀くんと一緒に帰っていた日。北原くんの心の雨が、私に響いてきて頭が痛かった日。
「…俺は、どうするべき、なんだろう」
「…突き放すような言い方になるけど、それはもう自分で答えを出すしかないかな」
私はしゃがみこむ北原くんの頭に手をおく。
「…きっと、北原くんの心では答えが出てる。大丈夫」
北原くんなら、という言葉は飲み込んだ。その言葉は自信をつける言葉であるとともに、プレッシャーをかける言葉でもある。ぐるぐる悩んでいるときに、悩み過ぎてしまう人に、その言葉は後者の効果となってしまう。私はそう思った。
「ほら、泣き止んだ?じゃあ戻ろう。皆が待ってるよ」
私は手を伸ばして、北原くんが手を取って、羅樹が私にしてくれるように引っ張っていく。私達の足跡はもう見えづらくなってしまったけれど、さっきから聞こえる悲鳴を頼りに行けば戻れると思った。確信は無かったが、なんとなく、行けるような気がした。
「…うん、戻ろう」
さっきまで涙をこぼしていたのが嘘のように、いつも通りの表情に少し笑顔を加えて、優しい表情をしていた。
「…あ、戻ってきた」
「なんで1番最初に行ったのに、しかも悲鳴も何もあげなかったのにこんなに遅いんだよ…」
「浅野くんって意外と…苦手だったのね」
「浅野、ペアが全然平気だったからって稲森さん達に八つ当たりは良くないっすよ!」
「ちょっと迷っちゃってねー」
「ほぼ一本道だったのに」
「いや、途中で何かもふもふしたのが見えたからそっち追いかけてたら」
「肝試し関係ねぇ!?」
私達が最後だったらしく、話が盛り上がる。別荘の前で話していたからか、小野くんと、眠そうな目をした由芽が出てきた。
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「聞いて聞いて!浅野くんがね!」
「やめろって」
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「…良かった」
「どうしたの、夕音?」
「ううん、なんでもない」
羅樹の声に、笑顔で答える。私はほっとしたような表情をしていただろう。視界の端で、夏川さんが北原くんの異変に気付いて、問い詰めているのが見えた。
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