753 / 812
"化かし日和のともしび" 10
しおりを挟む
セイ(由芽)は頭を掻きむしりながら叫び散らす。
「違う、違う、違う!僕は人間が嫌いで、幾つも世界を壊す人間が憎くて、その度に管理者である僕は苦痛を見なければいけないから苦痛で仕方なくて!何も知らずにのうのうと生きて悪意を垂れ流している人間が、大嫌いで!」
「何も知らずに生きている人間が、ね」
「…っ」
アマネ(霙)の言葉に眉を顰め、顔を上げるセイ。そんなセイに近付いて頬に張り付いた髪を払ってやると、アマネはくすりと笑った。
「ねぇ、セイ。この世界に溶けて来た人間は、悪意に影響を受けて絶望の中に堕ちたんでしょう?じゃあそれに関わらない部分は?」
「…どういう、意味?」
「私は性善説なんてこれっぽっちも信じてないけど、中立があるだろうことは理解してる。そうでなきゃとっくに人類なんて互いを殺し合って絶滅してるでしょ。だから悪意を削ぎ落としたら何も残らないなんてあり得ないと思ってる。それは、何処に行くの?」
「知らない」
アマネの問いに間髪入れず答えるセイ。しかしその目は泳いでおり、わかりやすく動揺している。それを見て確信を深めたらしいアマネは、ふっと息を吐いて笑った。
「やっぱり。この世界に溶けた後、何処か行く先があるのね?」
「っ」
「何も行き先がなければ、疑問符を浮かべる場面だもの」
アマネはぱさりと髪を後ろに流すと、切なそうな微笑みでセイを見つめた。
「私を絶望に突き落として悪意に溶かそうとしたのは、そうすれば私がその行く先に進めると思ったから?出来れば好奇心すら浮かばないように、貴方への嫌悪と憎悪でも抱けば完璧だった?でも、ごめんなさいね。私、貴方への嫌悪なんてこれっぽっちも抱かなかった」
端的に言えば、セイはアマネを助けようとしたのだ。この世界に来ることを選ぶ程の魂が、深い深い絶望に染まっていることは分かりきっていたから、最初にその事例が現れた時にどうするか、セイやその上のモノとの間で取り決めが成された。悪意を浄化し、新たな輪廻転生へ。だから悪意の少ない、それこそ好奇心に負けるほどにしかないアマネはイレギュラーであり、だからこそどんな影響が及ぶか分からなかった。現世で散々味わった苦しみをもう一度味合わせるのは可哀想だと思った。だから早く輪廻転生に乗れるように、セイはアマネを溶かそうとしたのだ。心が絶望に染まれば、あとは意識せずとも勝手に溶ける。その間に人間が絶叫することも口を開くこともないことは知っている。穏やかに、眠るように、魂が巡るのをただ待つだけだと、管理人であるセイは知っていたから。だからアマネの心を黒く塗り潰すことを選んで、そのまま絶望へと突き落とした。恨まれるのなら、嫌われるのなら。それで構わない。その感情もアマネが溶ける手伝いをしてくれる筈だから。
そう、思っていたのに。
あろうことか目の前にいるアマネという者は、"優しいふりをして殺そうとした"筈のセイを全くもって恨んでいないと宣うのだ。セイは愕然と目を見開く。
「だって私、最初に見た貴方の顔が凄く悲しそうだったことを、知っているもの」
アマネは悪戯を打ち明けるように、小さく微笑んだ。
「違う、違う、違う!僕は人間が嫌いで、幾つも世界を壊す人間が憎くて、その度に管理者である僕は苦痛を見なければいけないから苦痛で仕方なくて!何も知らずにのうのうと生きて悪意を垂れ流している人間が、大嫌いで!」
「何も知らずに生きている人間が、ね」
「…っ」
アマネ(霙)の言葉に眉を顰め、顔を上げるセイ。そんなセイに近付いて頬に張り付いた髪を払ってやると、アマネはくすりと笑った。
「ねぇ、セイ。この世界に溶けて来た人間は、悪意に影響を受けて絶望の中に堕ちたんでしょう?じゃあそれに関わらない部分は?」
「…どういう、意味?」
「私は性善説なんてこれっぽっちも信じてないけど、中立があるだろうことは理解してる。そうでなきゃとっくに人類なんて互いを殺し合って絶滅してるでしょ。だから悪意を削ぎ落としたら何も残らないなんてあり得ないと思ってる。それは、何処に行くの?」
「知らない」
アマネの問いに間髪入れず答えるセイ。しかしその目は泳いでおり、わかりやすく動揺している。それを見て確信を深めたらしいアマネは、ふっと息を吐いて笑った。
「やっぱり。この世界に溶けた後、何処か行く先があるのね?」
「っ」
「何も行き先がなければ、疑問符を浮かべる場面だもの」
アマネはぱさりと髪を後ろに流すと、切なそうな微笑みでセイを見つめた。
「私を絶望に突き落として悪意に溶かそうとしたのは、そうすれば私がその行く先に進めると思ったから?出来れば好奇心すら浮かばないように、貴方への嫌悪と憎悪でも抱けば完璧だった?でも、ごめんなさいね。私、貴方への嫌悪なんてこれっぽっちも抱かなかった」
端的に言えば、セイはアマネを助けようとしたのだ。この世界に来ることを選ぶ程の魂が、深い深い絶望に染まっていることは分かりきっていたから、最初にその事例が現れた時にどうするか、セイやその上のモノとの間で取り決めが成された。悪意を浄化し、新たな輪廻転生へ。だから悪意の少ない、それこそ好奇心に負けるほどにしかないアマネはイレギュラーであり、だからこそどんな影響が及ぶか分からなかった。現世で散々味わった苦しみをもう一度味合わせるのは可哀想だと思った。だから早く輪廻転生に乗れるように、セイはアマネを溶かそうとしたのだ。心が絶望に染まれば、あとは意識せずとも勝手に溶ける。その間に人間が絶叫することも口を開くこともないことは知っている。穏やかに、眠るように、魂が巡るのをただ待つだけだと、管理人であるセイは知っていたから。だからアマネの心を黒く塗り潰すことを選んで、そのまま絶望へと突き落とした。恨まれるのなら、嫌われるのなら。それで構わない。その感情もアマネが溶ける手伝いをしてくれる筈だから。
そう、思っていたのに。
あろうことか目の前にいるアマネという者は、"優しいふりをして殺そうとした"筈のセイを全くもって恨んでいないと宣うのだ。セイは愕然と目を見開く。
「だって私、最初に見た貴方の顔が凄く悲しそうだったことを、知っているもの」
アマネは悪戯を打ち明けるように、小さく微笑んだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」
義姉にそう言われてしまい、困っている。
「義父と寝るだなんて、そんなことは
俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・
白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。
その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。
そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる