神様自学

天ノ谷 霙

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"化かし日和のともしび" 4

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セイ(由芽)に手を引かれ訪れたのは、この世界で何処よりも高い山。道中ふわふわと揺れる尻尾に何度も心を奪われ、繋いでいない手で突いてはくすくすと笑いを返されるといった平和なやり取りを繰り返しながら、そのまま山頂へと辿り着いた。大きな尻尾でふわりと隠された視界が晴れ、飛び込んで来た世界にあっと息を呑んだ。
「き、れい…」
「でしょでしょ?お気に入りなんだ~」
赤と黒を基調とした世界。同じように高い山は頂点から煙を吐き、海のように広がるマグマ溜まりはぐつぐつと煮えたぎっている。地獄であることを象徴するようなものばかりだが、それらを遠くから眺められるこの景色は、とても美しかった。先程見た花や岩は点となってほとんど見えないが、煌めく光や点々と咲く存在は感じられ、ホッと息を吐く。
「じゃあ次は~、うーん、あっち側だから~」
セイが指差したのは登山道とは反対側の場所だ。切り立った崖のようになったそちら側に道はない。最短距離は使えないので、また登山道を降りて向かおうと振り返ったところで、「何処行くの」とセイがアマネ(霙)に問い掛けた。
「だって、あっちに行くなら降りなきゃでしょう?」
「そう。降りるんだよ」
「じゃあこっちの道じゃない」
「?? 何言ってるの? あっちに行くんだよ?」
セイもアマネも首を傾げる。そして暫くして、セイが「あぁ」と納得したように声を上げた。そして崖ギリギリに足を並べ、妖艶に微笑む。
「君は、アマネは」
「うん?」
セイは何かを口にしようとして、ふるふると首を横に振る。そして一瞬崖の下を見て、にこりと笑った。
「着いて来てね」
「え?」
とん、とセイは軽く足の裏で地面を押すと、そのまま背中から真っ逆様に飛び降りた。
「───え、」
声の出ないアマネの視界からどんどん遠ざかるセイ。いつの間にか消えたその姿に、アマネは真っ青になる。
「セイ、セイ!?セイ!!!」
悲痛な叫び声がこだまする。けれどその姿も声もない。焦るアマネであったが、セイの一言を思い出して、血の気の引いた顔で呟いた。
「まさか、飛び降りろってこと?」
そう考えるのが自然だ。あの言い方と、山道のない方向に向かうのに振り返らなかったあの態度なら。だからアマネはすぐにセイの意図に気付いた。セイと違って人であるアマネはその高さに耐えられない筈だが、セイは人でないから知らないのだろうと納得して。
「…セイ」
振り返れば、先程登って来た山道がある。そちらから降りれば無事に戻れるし、崖に沿って歩けば合流出来るかもしれない。セイがそんなに長く待ってくれるかは分からないが、それでも飛び降りるよりはよっぽど安全な選択肢だろう。
けれど、アマネの中にその選択肢はなかった。
「痛くないといいなぁ」
そう呟くと、アマネの目から光が消える。
そして同時に、ぱらりと落ちた砂粒が音を立てると同時に、アマネの体がゆっくりと崖に向かって傾いた。
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