神様自学

天ノ谷 霙

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when is 反抗期? 蒼(短編)

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部活のよしみで海斗に誘われ、来の家がやっている店にやって来た。今日は午前練だったので腹が減っている。疲れ切った体をソファに沈めれば、向かいに座った海斗が「お疲れ様」と笑った。
「前に食べたときは大人数用だったしな。来てみたかったんだよな」
「めちゃくちゃ美味いぞ。流石潮賀家って感じ」
「どんな感じだよ、それ」
そんな話をしていたら、来のお姉さんが注文を取りにやって来た。昼も大幅に過ぎた時間なのでお客さんは他に居らず、来と話せないかと思ったが、生憎買い物中らしい。しばらくは帰って来ないと残念そうに言われてしまった。残念だが仕方ない。そう割り切って俺はカレー、海斗はオムライスを注文した後で、ふと思い出したように来のお姉さんは問いかけて来た。
「来くん、学校でも敬語なの?」
「え、あ、はい」
唐突な問いかけに驚いたものの、すぐに持ち直し海斗が答える。その答えに苦笑いを浮かべたお姉さんは、頷きながらポツリと溢した。
「そうなんだ。家でもそうだから、流石に友達の前では崩すのかなぁって思ってたけど違うのね…」
「家でも敬語なんですか?」
「えぇ。来くんが敬語崩したところ、ほとんど見たことないかも…」
「そういえば桐竜にも敬語だったような…」
「確かに…」
桐竜 亜美。来の恋人である女子だが、そんな彼女と話している時も来が敬語を崩しているのを見た記憶がない。他に敬語癖がある辻 眞里阿なども、友人との会話中では崩れていることがあるのでやはり来の敬語癖は筋金入りだろう。そう考え込む中でふと、とある疑問を抱いた。
「すみません、来って反抗期、あったんですか?」
「え?」
「流石にそれは…」
問い掛けると、海斗が当たり前だろという目を向けて来たが、お姉さんは疑問符を浮かべて黙り込んでしまった。少し青褪めているように見えるのは気のせいだろうか。そう思っていると、お姉さんは少し待ってて、と言い残して奥へ引っ込んでしまった。
「…まさか」
「いやいやいや、流石の来も…え、全然想像出来ないな…」
「や~、ごめんね。お待たせしました」
しばらくしてお姉さんがカレーとオムライスを持ちながら出て来た。話の続きだけど、と切り出されて俺と海斗は息を呑む。
「…えぇとね、来の、反抗期だけど──」
「ただいま帰りました!」
からんからん、と入り口のベルと共に来の声が響く。振り向くと、目が合った来がぱぁっと顔を明るくした。
「小野くん、林くん!いらっしゃいませ!」
「あ、あぁ、遊びに来てるよ」
「めちゃくちゃ美味しいからな…!」
挙動不審になりながらも何とかそう返した俺達に、にこにこと手を振って買って来たものを奥に仕舞いに行く来。
「あ、待って来くん!別にしてほしいものが…!ご、ごゆっくりどうぞ!」
来のお姉さんも来を追いかけて引っ込む。何とも気になる場所で話が切れてしまった。
「でもまぁ」
「ん?」
「心配になるくらい良い子だよなぁ、来」
「同意」
そう話していると、奥から「あー!!」という大きな声が聞こえて来る。何事かと首を回せば、来がお姉さんに迫っていた。
「姉さま!これ食べないでくださいって言いましたよね!?試作品とわざわざ分けたのに!」
「え!?あ、ごめんごめん、間違えて…」
「今日という今日はその言い訳聞きませんからね!姉さま!せっかく亜美さんに渡そうと思ったのに…っ絶対絶対絶対、許しませんから!」
珍しく来が怒っているところを見て、俺と海斗は顔を見合わせた。
「…反抗って感じじゃないけど」
「怒ること、あるんだなぁ…」
何となく安心したのだった。
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