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3月20日 私だから
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さぁっと、海によって冷えた風が髪を撫でる。金の髪がさらさらと揺れて、羅樹の体をくすぐった。
「だから、僕は夕音が怒りたいなら怒っていいと思うんだ」
「…」
どういう意味かと言葉を待てば、羅樹は優しく微笑む。私の頬に手を触れて、ふっと目を伏せた。
「夕音の真っ直ぐな言葉は、真っ直ぐな怒りは、きっとその人…人じゃないんだっけ、その相手に届くと思うよ。夕音は、気付いてなかった苦しいとか寂しいとかの感情を言葉にしてくれる。それを理不尽だって教えてくれる。それがどれだけ助けになるか、きっと夕音は知らないんだろうけどさ」
羅樹はくすりと笑う。私の目を真っ直ぐ見て、心の底から嬉しそうに微笑んだ。
「夕音が怒ることは、きっとその相手が知るべき大切なことだよ」
私の怒りが、相手にとって必要なことを知る手段。羅樹はそう言って笑った。私はその意味を実感として理解することは出来なかったけれど、何度も経験してきたと胸を張る羅樹がそう言うのなら、きっとそうなのだろうと信じられる。私の怒りが、私が私として当たり前にやってきたことを、大好きなこの人が肯定してくれるなら。私は進むことが出来る。
「…っうん…!」
私の頬を包む羅樹の手を掴んで、そっと離した。自由になったその勢いで立ち上がる。進む方向は決まった。後はそっちに向けて、全力で進むだけだ。進む方法を、見つけるだけだ。
見上げた空は、羅樹の瞳と同じ色をしている。それが堪らなく嬉しかった。
「羅樹」
「うん?」
立ち上がった私越しに見える太陽を、眩しそうに見上げていた羅樹に手を差し出す。その手を取ると同時に無理やり引っ張り上げれば、バランスを崩した羅樹が私に抱き留められるようにして立ち上がった。
「ありがとう、羅樹。私も、大好き」
いつもより素直に言えた。最近は素直に言えるようになって来た。成長してるのかもしれない、なんて、こんなところでも自分に自信がつく。
体重を両足に掛け直し体勢を戻した羅樹が、ぱちぱちと目を瞬いた。そしてふにゃりと微笑む。空色の瞳が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いた。まるで天を閉じ込めたみたいに綺麗な瞳に、きゅんと心臓が鳴く。
「私、稲荷様に伝える。許さないって、何をしてるんですかって、怒ってみる。力のない私が向かうのは危ないって分かってるけど、それでも止まれないのが私だから」
『よくぞ、よくぞ言ってくださいました!』
「「わっ!?」」
羅樹と笑い合っていると、私の背後で声が響く。振り向けば虹様が、私の両肩に手をついて嬉しそうにはしゃいでいた。
「だから、僕は夕音が怒りたいなら怒っていいと思うんだ」
「…」
どういう意味かと言葉を待てば、羅樹は優しく微笑む。私の頬に手を触れて、ふっと目を伏せた。
「夕音の真っ直ぐな言葉は、真っ直ぐな怒りは、きっとその人…人じゃないんだっけ、その相手に届くと思うよ。夕音は、気付いてなかった苦しいとか寂しいとかの感情を言葉にしてくれる。それを理不尽だって教えてくれる。それがどれだけ助けになるか、きっと夕音は知らないんだろうけどさ」
羅樹はくすりと笑う。私の目を真っ直ぐ見て、心の底から嬉しそうに微笑んだ。
「夕音が怒ることは、きっとその相手が知るべき大切なことだよ」
私の怒りが、相手にとって必要なことを知る手段。羅樹はそう言って笑った。私はその意味を実感として理解することは出来なかったけれど、何度も経験してきたと胸を張る羅樹がそう言うのなら、きっとそうなのだろうと信じられる。私の怒りが、私が私として当たり前にやってきたことを、大好きなこの人が肯定してくれるなら。私は進むことが出来る。
「…っうん…!」
私の頬を包む羅樹の手を掴んで、そっと離した。自由になったその勢いで立ち上がる。進む方向は決まった。後はそっちに向けて、全力で進むだけだ。進む方法を、見つけるだけだ。
見上げた空は、羅樹の瞳と同じ色をしている。それが堪らなく嬉しかった。
「羅樹」
「うん?」
立ち上がった私越しに見える太陽を、眩しそうに見上げていた羅樹に手を差し出す。その手を取ると同時に無理やり引っ張り上げれば、バランスを崩した羅樹が私に抱き留められるようにして立ち上がった。
「ありがとう、羅樹。私も、大好き」
いつもより素直に言えた。最近は素直に言えるようになって来た。成長してるのかもしれない、なんて、こんなところでも自分に自信がつく。
体重を両足に掛け直し体勢を戻した羅樹が、ぱちぱちと目を瞬いた。そしてふにゃりと微笑む。空色の瞳が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いた。まるで天を閉じ込めたみたいに綺麗な瞳に、きゅんと心臓が鳴く。
「私、稲荷様に伝える。許さないって、何をしてるんですかって、怒ってみる。力のない私が向かうのは危ないって分かってるけど、それでも止まれないのが私だから」
『よくぞ、よくぞ言ってくださいました!』
「「わっ!?」」
羅樹と笑い合っていると、私の背後で声が響く。振り向けば虹様が、私の両肩に手をついて嬉しそうにはしゃいでいた。
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