神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
739 / 812

3月20日 私だから

しおりを挟む
さぁっと、海によって冷えた風が髪を撫でる。金の髪がさらさらと揺れて、羅樹の体をくすぐった。
「だから、僕は夕音が怒りたいなら怒っていいと思うんだ」
「…」
どういう意味かと言葉を待てば、羅樹は優しく微笑む。私の頬に手を触れて、ふっと目を伏せた。
「夕音の真っ直ぐな言葉は、真っ直ぐな怒りは、きっとその人…人じゃないんだっけ、その相手に届くと思うよ。夕音は、気付いてなかった苦しいとか寂しいとかの感情を言葉にしてくれる。それを理不尽だって教えてくれる。それがどれだけ助けになるか、きっと夕音は知らないんだろうけどさ」
羅樹はくすりと笑う。私の目を真っ直ぐ見て、心の底から嬉しそうに微笑んだ。
「夕音が怒ることは、きっとその相手が知るべき大切なことだよ」
私の怒りが、相手にとって必要なことを知る手段。羅樹はそう言って笑った。私はその意味を実感として理解することは出来なかったけれど、何度も経験してきたと胸を張る羅樹がそう言うのなら、きっとそうなのだろうと信じられる。私の怒りが、私が私として当たり前にやってきたことを、大好きなこの人が肯定してくれるなら。私は進むことが出来る。
「…っうん…!」
私の頬を包む羅樹の手を掴んで、そっと離した。自由になったその勢いで立ち上がる。進む方向は決まった。後はそっちに向けて、全力で進むだけだ。進む方法を、見つけるだけだ。
見上げた空は、羅樹の瞳と同じ色をしている。それが堪らなく嬉しかった。
「羅樹」
「うん?」
立ち上がった私越しに見える太陽を、眩しそうに見上げていた羅樹に手を差し出す。その手を取ると同時に無理やり引っ張り上げれば、バランスを崩した羅樹が私に抱き留められるようにして立ち上がった。
「ありがとう、羅樹。私も、大好き」
いつもより素直に言えた。最近は素直に言えるようになって来た。成長してるのかもしれない、なんて、こんなところでも自分に自信がつく。
体重を両足に掛け直し体勢を戻した羅樹が、ぱちぱちと目を瞬いた。そしてふにゃりと微笑む。空色の瞳が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いた。まるで天を閉じ込めたみたいに綺麗な瞳に、きゅんと心臓が鳴く。
「私、稲荷様に伝える。許さないって、何をしてるんですかって、怒ってみる。力のない私が向かうのは危ないって分かってるけど、それでも止まれないのが私だから」
『よくぞ、よくぞ言ってくださいました!』
「「わっ!?」」
羅樹と笑い合っていると、私の背後で声が響く。振り向けば虹様が、私の両肩に手をついて嬉しそうにはしゃいでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

処理中です...