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3月20日 守護の理由
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羅樹のお陰で混乱せずに済んだ私は、羅樹を宥めながら虹様に話を聞く。
「守護って、どういうことですか?」
『そのまま、守り、護ることを意味します』
「つまり、私は神様の守護が必要な状態である、と?」
『…はい。半分その通りです』
「半分?」
問い返すと、虹様はこくりと頷いて真剣な目をした。
『夕音様は、こちらの存在を感知し言葉を交わすことが出来る存在です。我々とは違い、低級のモノは"見る"ことや"話す"ことで存在を確定させるモノもおります。そういったモノにとって、夕音様の存在は自身を定めるための指針ともなり得ますから、何が何でも繋がりを持とうとします』
「…その繋がり欲しさに、私に害が出る可能性が?」
『お察しが良いですね。その通りです』
虹様はふっと一瞬下を向くと、顔を上げてまっすぐこちらを見つめて来た。覚悟を決めたかのように、はっきりと口を開く。
『唐突に力を失う、というのはよくある話だと私たちは知っています。けれど、低級はそうではない。少し前に言葉を交わした相手が自分を認識出来なくなる日が来るとは分からない。だから"無視"されていると感じます。低級にとって認識されないというのは命に関わりますから、何とか自身を認識してもらおうとあの手この手を尽くします。呪いでも、乗っ取りでも、何でも』
「のろ…!?」
羅樹が青褪める。この1年で何度も聞き、何度も打ち消して来たものだ。けれどその役割を担っていたのは私に宿っていた恋音さんであり、今の私には不安が残る。羅樹の手を掴んで落ち着かせながら、私は息をごくりと呑んだ。
『はい。先に申し上げますと、過去、夕音様が視界を閉ざした際には伏見が解呪しておりました。伏見が認識すれば低級も一応は形を保てますから。それすら納得出来ないモノは対応していたのでしょう。けれど今は伏見がいない状態。力も稲荷に奪われた状態では、夕音様に対処の術は御座いません』
「だから虹様が来た、ということですか?」
『はい。償いの意も込めて。夕音様には御恩も御座いますから裏切るなど到底出来ませんが、不安でしたら体の一部を握っていただいても──』
「そ、それはいいです」
虹様の申し出は即刻断り、考え込む。そんなに危ない状態だったとは知らなかった。これは確かに何も知らなければ今度こそ命が危なかったかもしれない。そんな状態にしたのは稲荷様、というのが少し引っ掛かるが。
そんな私の疑問が顔に出ていたのか、虹様は困ったように眉尻を下げた。
『私が言える立場では御座いませんが』
一旦言葉を切り、虹様は懐かしそうに目を細める。空へ視線を流すその姿は、何処か寂しそうだった。
『稲荷は、ヒトに情を持ちすぎ、そしてそれを戒めるために周りが見えなくなるところが御座いますから』
あぁ、姉妹なのだと、改めて気付いた。
「守護って、どういうことですか?」
『そのまま、守り、護ることを意味します』
「つまり、私は神様の守護が必要な状態である、と?」
『…はい。半分その通りです』
「半分?」
問い返すと、虹様はこくりと頷いて真剣な目をした。
『夕音様は、こちらの存在を感知し言葉を交わすことが出来る存在です。我々とは違い、低級のモノは"見る"ことや"話す"ことで存在を確定させるモノもおります。そういったモノにとって、夕音様の存在は自身を定めるための指針ともなり得ますから、何が何でも繋がりを持とうとします』
「…その繋がり欲しさに、私に害が出る可能性が?」
『お察しが良いですね。その通りです』
虹様はふっと一瞬下を向くと、顔を上げてまっすぐこちらを見つめて来た。覚悟を決めたかのように、はっきりと口を開く。
『唐突に力を失う、というのはよくある話だと私たちは知っています。けれど、低級はそうではない。少し前に言葉を交わした相手が自分を認識出来なくなる日が来るとは分からない。だから"無視"されていると感じます。低級にとって認識されないというのは命に関わりますから、何とか自身を認識してもらおうとあの手この手を尽くします。呪いでも、乗っ取りでも、何でも』
「のろ…!?」
羅樹が青褪める。この1年で何度も聞き、何度も打ち消して来たものだ。けれどその役割を担っていたのは私に宿っていた恋音さんであり、今の私には不安が残る。羅樹の手を掴んで落ち着かせながら、私は息をごくりと呑んだ。
『はい。先に申し上げますと、過去、夕音様が視界を閉ざした際には伏見が解呪しておりました。伏見が認識すれば低級も一応は形を保てますから。それすら納得出来ないモノは対応していたのでしょう。けれど今は伏見がいない状態。力も稲荷に奪われた状態では、夕音様に対処の術は御座いません』
「だから虹様が来た、ということですか?」
『はい。償いの意も込めて。夕音様には御恩も御座いますから裏切るなど到底出来ませんが、不安でしたら体の一部を握っていただいても──』
「そ、それはいいです」
虹様の申し出は即刻断り、考え込む。そんなに危ない状態だったとは知らなかった。これは確かに何も知らなければ今度こそ命が危なかったかもしれない。そんな状態にしたのは稲荷様、というのが少し引っ掛かるが。
そんな私の疑問が顔に出ていたのか、虹様は困ったように眉尻を下げた。
『私が言える立場では御座いませんが』
一旦言葉を切り、虹様は懐かしそうに目を細める。空へ視線を流すその姿は、何処か寂しそうだった。
『稲荷は、ヒトに情を持ちすぎ、そしてそれを戒めるために周りが見えなくなるところが御座いますから』
あぁ、姉妹なのだと、改めて気付いた。
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