神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
729 / 812

夢現の花

しおりを挟む
『ニンゲン、アソボウ、アソボウ』
『ヒトは面白いものを生むな。どれ、私にも指南して見せよ』
『ゆうね』
『ユウネ』
たくさんの何かが私を呼ぶ。その声も姿も知っている。私の奥底で眠る記憶だ。思い出から切り取られたワンシーンだ。昔の事実だ。
話し掛けられた私は笑顔を浮かべ、呼んだ相手と楽しげにおしゃべりをする。靄がかかったように分からなかったあの頃の記憶が、蘇る。
『ヒトめ、ヒト風情が』
『呪え、喰い殺せ、我らを奪い蹂躙するモノ共を』
『嫌だ、何故私が見える?』
『気味の悪い娘だ』
そうだった。私に後ろ指を指したのは人間じゃない。私を不気味だと最初に称したのはあちらの世界のモノだった。だから私は知っていたのだ。母が悲しそうな顔をする前から、羅樹が泣き叫ぶ前から、私が"不気味な存在"であることを。
それでも、私は知っていた。
嫌うモノと好んでくれるモノ、両方がいることも。
私に好意的に接してくれるモノもいた。手遊びを教えれば数日間ずっとやり続けたモノもいた。力を捏ね回して作り出したものを自慢げに見せてくれたモノもいた。ヒトの遊びを気に入ったモノもいた。だから私は、あちらの世のモノを一緒くたには出来ないし、個を見たいと思ったのだ。
だってそれは、ヒトだって一緒だから。
無意識にあちらのモノと話して気味悪がられたこともある。それも私だと肯定してくれた人もいる。私への好悪はヒトかそれ以外かなんて関係ない。だから私は大きな括りが出来なくて、命を狙われても、その対象に負の感情を抱いたとしても、あちらのモノ全てを嫌うことは出来なかったのだ。
でも代わりに、羅樹がそれらを否定した。
私を奪い取り、手の届かない場所に連れて行く何か。私と共に遊んだかと思えば、私を追い詰めることもあったヒトならざるモノ。それらから引き離す為に、自分を選んでもらえるように行動して来た羅樹に、私はいつの間にか恋をしていた。

"夕音わたし"という種が芽吹く。

私が生きるごとに成長していく、私だけの花。私の中で育ち行く、感情に伴って姿形を変える花々。
"雨"の日は雫に濡れてじっと成長を待ち、
"嵐"の日には流されそうになりながらも強く生き、
"雪"の日には自分を守るように縮こまり、
"晴れ"の日には元気に咲いた私の花。
私の為にいつでも咲いていてくれた花。
羅樹に恋したあの日から、形を定めた夢現の花。
きっと名前はなかった。花言葉も、香りも、色も、何も分からなかった。私が"恋使コイツカイ"として咲かせて来た花も、きっと最初はただの花だった。私が言葉として紡ぎ、この世界に"記録"されたからその花となったのだ。よく知る名前を持った、この世に存在する一つの花に。そっと恋心の背を押す、優しい花に。
ならばこの花は私の背を押す花。言葉を紡ぐことのない、私の為に咲いている花。私のように夢と現を行き来する不思議な花。
私が、私である為に生まれて来た花。
ならばまだ、名前を定めることは出来ない。してはいけない。私はまだ進む道が分かっていない。稲荷様に会いたいのか、怖いのか、疑問に押し潰されていっぱいになっている。
だからもう少しだけ、わたしは"夢現の花"のままで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

汐留一家は私以外腐ってる!

折原さゆみ
青春
私、汐留喜咲(しおどめきさき)はいたって普通の高校生である。 それなのに、どうして家族はこうもおかしいのだろうか。 腐女子の母、母の影響で腐男子に目覚めた父、百合ものに目覚めた妹。 今時、LGBTが広まる中で、偏見などはしたくはないが、それでもそれ抜きに、私の家族はおかしいのだ。

幼馴染と結婚したけれど幸せじゃありません。逃げてもいいですか?

恋愛
 私の夫オーウェンは勇者。  おとぎ話のような話だけれど、この世界にある日突然魔王が現れた。  予言者のお告げにより勇者として、パン屋の息子オーウェンが魔王討伐の旅に出た。  幾多の苦難を乗り越え、魔王討伐を果たした勇者オーウェンは生まれ育った国へ帰ってきて、幼馴染の私と結婚をした。  それは夢のようなハッピーエンド。  世間の人たちから見れば、私は幸せな花嫁だった。  けれど、私は幸せだと思えず、結婚生活の中で孤独を募らせていって……? ※ゆるゆる設定のご都合主義です。  

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のローズ・ブライトはレイ・ブラウン王子と婚約していた。 婚約していた当初は仲が良かった。 しかし年月を重ねるに連れ、会う時間が少なくなり、パーティー会場でしか顔を合わさないようになった。 そして学園に上がると、レイはとある男爵令嬢に恋心を抱くようになった。 これまでレイのために厳しい王妃教育に耐えていたのに裏切られたローズはレイへの恋心も冷めた。 そして留学を決意する。 しかし帰ってきた瞬間、レイはローズに婚約破棄を叩きつけた。 「ローズ・ブライト! ナタリーを虐めた罪でお前との婚約を破棄する!」 えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?

あの空の向こう

麒麟
青春
母親が死に天涯孤独になった、喘息持ちの蒼が 引き取り先の兄と一緒に日々を過ごしていく物語です。 蒼…日本と外国のハーフ。   髪は艶のある黒髪。目は緑色。   喘息持ち。   病院嫌い。 爽希…蒼の兄。(本当は従兄弟)    職業は呼吸器科の医者。    誰にでも優しい。 健介…蒼の主治医。    職業は小児科の医者。    蒼が泣いても治療は必ずする。 陸斗…小児科の看護師。    とっても優しい。 ※登場人物が増えそうなら、追加で書いていきます。  

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

処理中です...