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3月18日 ガラス玉
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ぱちり、と目を開く。短い間眠っては、ちょっとしたことで驚くように起きてしまう。時間を確認すると、先程までよりは幾分か長く、それでも数時間も進んでいない数字を針が指していた。寝転がったまま携帯に手を伸ばし開くと、通知を知らせるアイコンが光っている。いつの間にか来ていた「お大事に」というメッセージの中には昨日送られたものもあったようで、申し訳ない気持ちになりながら返事をする。昨日は見ている余裕がなくて、返すのが遅くなってしまった。今はちょうど休み時間だから、送っても迷惑になることはないだろう。そんなことをぼんやりと考えながら文字を打ち終え、携帯を手放す。何度か眠ったからだろうか、気分はすっきりしており、苦しさも少なくなっている。
「…稲荷様」
呼んだところで反応はない。分かっている。けれど今なら来てくれるのではないかという淡い期待が、愚かであっても行動を促す。手を振り下ろしても、何も変わらないのに。
「…っ!」
こつん、と何かが額に当たった。驚いて目を瞑ったが、そんなに痛くない。きょろきょろと辺りを見回してみると、ビー玉くらいの大きさの丸い玉が落ちているのを見つけた。
「…?」
向日葵のような黄色と木陰のような緑が入り混じっている不思議な色の玉。手に取ってみるとその原色のようなのっぺりとした色とは裏腹に、向こうが透けて見えた。手の上で転がしてみると太陽の光を反射してキラキラと輝く。日に透かして見ると、晴天の色が内側で鮮やかに煌めいた。
「綺麗。でも、こんなものあったっけ…?」
天井から落ちて来たとも思えない。けれどベッドの近くにビー玉入れなどなく、紛れ込んでいそうなものも思い付かない。私の部屋なのだから私以外のものがある可能性は低いのだが、それでも全く見覚えがなかった。
「忘れてる?でも、もう力はないし」
恋音さんは私の視界を解いたと言っていた。実際ヒトならざるモノを映していたし、それ以上忘れているとは考えにくい。ただ歳を取ったことによる忘却か、本当に初めて見るものなのか。考えても答えは出ない。
「なんだか温かい」
ぎゅっと手の平に握り締めて目を瞑る。じんわりと温かくなっていくような気がして、ホッとする。この温かさはまるで、春の麗らかな日差しのようだ。揺らめくガラス玉の美しさに息を吐き、枕元に置いてもう一度眠りにつく。今度はもっと長く眠れますように、と心の中で願いをかけて。
夢の中で、ガラス玉と同じ色が空を舞った気がした。
「…稲荷様」
呼んだところで反応はない。分かっている。けれど今なら来てくれるのではないかという淡い期待が、愚かであっても行動を促す。手を振り下ろしても、何も変わらないのに。
「…っ!」
こつん、と何かが額に当たった。驚いて目を瞑ったが、そんなに痛くない。きょろきょろと辺りを見回してみると、ビー玉くらいの大きさの丸い玉が落ちているのを見つけた。
「…?」
向日葵のような黄色と木陰のような緑が入り混じっている不思議な色の玉。手に取ってみるとその原色のようなのっぺりとした色とは裏腹に、向こうが透けて見えた。手の上で転がしてみると太陽の光を反射してキラキラと輝く。日に透かして見ると、晴天の色が内側で鮮やかに煌めいた。
「綺麗。でも、こんなものあったっけ…?」
天井から落ちて来たとも思えない。けれどベッドの近くにビー玉入れなどなく、紛れ込んでいそうなものも思い付かない。私の部屋なのだから私以外のものがある可能性は低いのだが、それでも全く見覚えがなかった。
「忘れてる?でも、もう力はないし」
恋音さんは私の視界を解いたと言っていた。実際ヒトならざるモノを映していたし、それ以上忘れているとは考えにくい。ただ歳を取ったことによる忘却か、本当に初めて見るものなのか。考えても答えは出ない。
「なんだか温かい」
ぎゅっと手の平に握り締めて目を瞑る。じんわりと温かくなっていくような気がして、ホッとする。この温かさはまるで、春の麗らかな日差しのようだ。揺らめくガラス玉の美しさに息を吐き、枕元に置いてもう一度眠りにつく。今度はもっと長く眠れますように、と心の中で願いをかけて。
夢の中で、ガラス玉と同じ色が空を舞った気がした。
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