神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
730 / 812

3月18日 ガラス玉

しおりを挟む
ぱちり、と目を開く。短い間眠っては、ちょっとしたことで驚くように起きてしまう。時間を確認すると、先程までよりは幾分か長く、それでも数時間も進んでいない数字を針が指していた。寝転がったまま携帯に手を伸ばし開くと、通知を知らせるアイコンが光っている。いつの間にか来ていた「お大事に」というメッセージの中には昨日送られたものもあったようで、申し訳ない気持ちになりながら返事をする。昨日は見ている余裕がなくて、返すのが遅くなってしまった。今はちょうど休み時間だから、送っても迷惑になることはないだろう。そんなことをぼんやりと考えながら文字を打ち終え、携帯を手放す。何度か眠ったからだろうか、気分はすっきりしており、苦しさも少なくなっている。
「…稲荷様」
呼んだところで反応はない。分かっている。けれど今なら来てくれるのではないかという淡い期待が、愚かであっても行動を促す。手を振り下ろしても、何も変わらないのに。
「…っ!」
こつん、と何かが額に当たった。驚いて目を瞑ったが、そんなに痛くない。きょろきょろと辺りを見回してみると、ビー玉くらいの大きさの丸い玉が落ちているのを見つけた。
「…?」
向日葵のような黄色と木陰のような緑が入り混じっている不思議な色の玉。手に取ってみるとその原色のようなのっぺりとした色とは裏腹に、向こうが透けて見えた。手の上で転がしてみると太陽の光を反射してキラキラと輝く。日に透かして見ると、晴天の色が内側で鮮やかに煌めいた。
「綺麗。でも、こんなものあったっけ…?」
天井から落ちて来たとも思えない。けれどベッドの近くにビー玉入れなどなく、紛れ込んでいそうなものも思い付かない。私の部屋なのだから私以外のものがある可能性は低いのだが、それでも全く見覚えがなかった。
「忘れてる?でも、もう力はないし」
恋音こいねさんは私の視界を解いたと言っていた。実際ヒトならざるモノを映していたし、それ以上忘れているとは考えにくい。ただ歳を取ったことによる忘却か、本当に初めて見るものなのか。考えても答えは出ない。
「なんだか温かい」
ぎゅっと手の平に握り締めて目を瞑る。じんわりと温かくなっていくような気がして、ホッとする。この温かさはまるで、春の麗らかな日差しのようだ。揺らめくガラス玉の美しさに息を吐き、枕元に置いてもう一度眠りにつく。今度はもっと長く眠れますように、と心の中で願いをかけて。
夢の中で、ガラス玉と同じ色が空を舞った気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

処理中です...