神様自学

天ノ谷 霙

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3月16日 準備はいい?

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眞里阿と紗奈がくすくすと笑っているのを、由芽と2人で首を傾げて眺めていると、唐突に由芽が声を上げた。
「あ、先に取っておいてあれだけど、眞里阿のおすすめってどれ?これだった?」
「あ、いえ!私のおすすめはイチゴのタルトです!前に食べてすっごく美味しかったんですよ!だから夕音ちゃんにはイチゴのタルトを食べてほしいんですけど…どうですか?」
「ありがとう。私もイチゴのタルトがすっごく美味しそうだなって思ってたんだ。眞里阿のおすすめがこれって聞いて、ちょっと喜んじゃったくらい」
「良かったです…!では是非!甘酸っぱい苺と滑らかな舌触りのクリームが最高でして!スポンジもこの世のものとは思えないほどに柔らかく!薄く引かれた苺ジャムの層が、花が咲いたのかと思うくらいに甘くて幸福感も一緒に味わえて!」
「ストップストップ。眞里阿、私たちも選ぼう?」
「あ、つい!」
我に返った眞里阿が、顔を赤らめながら縮こまる。それでも瞳の中に燻る熱は、いつかの文化祭で編茶乃ちゃん達の演奏を見に行った時のようで、キラキラと輝いていた。
「えぇと、紗奈ちゃんはチョコ、だよね?」
「うん!眞里阿はモンブランでしょ?ふふっ、割と想定通り、かなっ」
「え?私が桃のケーキ取るってわかってたの?なんで?」
「えっ…」
「それは…」
あからさまに動揺した2人を見て、私も由芽もなんとなく察しがついてしまった。まぁそうだろうなとは思ってはいたが、2人の態度が挙動不審すぎてツッコむのも野暮な気がする。
ようするに、由芽のお母さんからのアドバイスなのだろう。きっと由芽は桃のショートケーキが好きなのだ。少し顔を上げて由芽の方を見れば、少し拗ねたような様子でじっとケーキを眺めていた。
「ケーキに罪はないよ、由芽」
「…わかってるよ」
それでも、この店が苦手であまり来ていなかったという由芽にとっては少し躊躇うものがあるようで。由芽が素直になれない性格なのは今更だが、そんな様子を微笑ましく見てしまう私の態度にも原因があるのだろう。生温い視線に気付いた由芽が、私から顔を背けるように縮こまってしまった。視線をテーブルに戻せば、眞里阿と紗奈も自分の皿を引き寄せて準備万端である。
「それじゃあ、そろそろ食べようか?」
「待ってました!」
「早く食べましょう!もう待ちきれません!!」
「おおっ、元気。それじゃあ…」
「「「「いただきます」」」」
ティータイムの雰囲気には少し合わない元気な挨拶も混ざりながら、私達はやっとケーキを食べ始めたのだった。
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