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3月15日 穏やかな目覚め
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瞼の裏に西日が差して、痛みのような感覚に目を覚ます。ゆっくりと起こした体は、いつの間にか腕の束縛を逃れていて。ぼんやりとした意識のまま羅樹を確認すれば、落ち着いた様子で穏やかな寝息を立てていた。額に触れれば、朝に感じたものより幾分か低い。安堵の息を吐いてベッドから抜け出し、脱ぎ捨てられた羅樹の服を見つけた。そういえば着替えの後に縋られ、動けなくなったのだと改めて思い出す。その直後に起こったことは少し苦い記憶だが、それを塗り潰す圧倒的な羅樹との記憶に、私は無意識に顔を赤らめた。唇を指先でなぞれば、蘇るのは柔らかな感触。同意も得ずに奪われた初めてのキスは、繰り返されたことによって複数回が1回の記憶としてカウントされていた。
「…はぁ」
恥ずかしさを誤魔化すように息を吐いて、私は部屋を後にする。羅樹はもう悪夢に魘されるような様子もなく、私は安堵しながら足音を立てないよう階下に降りた。
「あら、起きたの?」
羅樹の家のリビングで、我が物顔で本を読んでいるのは私の母親だ。驚きと同時に眉を顰めると、お母さんは私の疑問を読んで答えを返した。
「羅樹くんが体調を崩したのが心配だったから、こっちに来たのよ。どうせ夜までお父さんは帰って来ないし、連絡しても羅樹くんのお父さんはすぐに帰って来られないと思うし。それなら私と夕音がこっち来た方が早いでしょ」
「それは、そうだけど」
「ご飯を食べに行き来するなんて今更でしょう。夕音がご飯を作るならそれで任せようと思ったけど、ぐっすり寝てるし」
「!」
反射的に顔が赤くなる。やはり、最初の声掛けの時にまさかとは思ったが、お母さんは私が羅樹と寝ているところを目撃したようだ。そこの関係について揶揄う様子はないが、淡々とされるのもそれはそれで恥ずかしい。
ましてや、起きた時には外れていたが羅樹の腕が娘の背に回されているのを目撃した可能性もあるのだ。流石にそんな光景を家族に見られるのは辛いものがある。しかし藪を突いて蛇を出す真似もしたくないので、言い淀むことしか出来ない。
「それで、羅樹くんは大丈夫そう?」
「え?あ、うん。朝ほど熱はなさそうだよ」
「そう、薬が効いたのね。それじゃあ、そろそろご飯を作り始めますか」
お母さんは本をテーブルに置いて、伸びをしながら立ち上がる。時間を見ればちょうど夕食時だ。結構寝ていたな、と思いながらお母さんがキッチンへ向かうのを眺める。羅樹の家だというのに、何だか手慣れた様子だ。朝もお粥を作ったというし、羅樹の家で料理をする経験でもあったのだろうか。疑問が顔に出ていたのか、流石母親というべきか、お母さんは悪戯っぽく笑って告げた。
「昔体調を崩した夕音を羅樹くんが離してくれない時があってね、キッチンを借りたことがあるのよ。それも数えきれないほどね」
「…なんか、ごめん」
「ふふっ」
苦笑いを浮かべるべきか、照れるべきかわからなかった。
「…はぁ」
恥ずかしさを誤魔化すように息を吐いて、私は部屋を後にする。羅樹はもう悪夢に魘されるような様子もなく、私は安堵しながら足音を立てないよう階下に降りた。
「あら、起きたの?」
羅樹の家のリビングで、我が物顔で本を読んでいるのは私の母親だ。驚きと同時に眉を顰めると、お母さんは私の疑問を読んで答えを返した。
「羅樹くんが体調を崩したのが心配だったから、こっちに来たのよ。どうせ夜までお父さんは帰って来ないし、連絡しても羅樹くんのお父さんはすぐに帰って来られないと思うし。それなら私と夕音がこっち来た方が早いでしょ」
「それは、そうだけど」
「ご飯を食べに行き来するなんて今更でしょう。夕音がご飯を作るならそれで任せようと思ったけど、ぐっすり寝てるし」
「!」
反射的に顔が赤くなる。やはり、最初の声掛けの時にまさかとは思ったが、お母さんは私が羅樹と寝ているところを目撃したようだ。そこの関係について揶揄う様子はないが、淡々とされるのもそれはそれで恥ずかしい。
ましてや、起きた時には外れていたが羅樹の腕が娘の背に回されているのを目撃した可能性もあるのだ。流石にそんな光景を家族に見られるのは辛いものがある。しかし藪を突いて蛇を出す真似もしたくないので、言い淀むことしか出来ない。
「それで、羅樹くんは大丈夫そう?」
「え?あ、うん。朝ほど熱はなさそうだよ」
「そう、薬が効いたのね。それじゃあ、そろそろご飯を作り始めますか」
お母さんは本をテーブルに置いて、伸びをしながら立ち上がる。時間を見ればちょうど夕食時だ。結構寝ていたな、と思いながらお母さんがキッチンへ向かうのを眺める。羅樹の家だというのに、何だか手慣れた様子だ。朝もお粥を作ったというし、羅樹の家で料理をする経験でもあったのだろうか。疑問が顔に出ていたのか、流石母親というべきか、お母さんは悪戯っぽく笑って告げた。
「昔体調を崩した夕音を羅樹くんが離してくれない時があってね、キッチンを借りたことがあるのよ。それも数えきれないほどね」
「…なんか、ごめん」
「ふふっ」
苦笑いを浮かべるべきか、照れるべきかわからなかった。
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