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3月15日 閉じ込めた本心
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空色の瞳が丸く揺れる。感情を読み取るのが怖くてはくはくと空を食んでいると、唐突に腰に腕が回った。それはあまりにも強くて、病人とは思えない力強さだ。呻き声を上げると少しだけ緩んだけれど、それでもかなりの強さで抱き締められている。混乱しながら名を呼ぶと、びくりと肩が震えた。
「…っえ?ら、羅樹?」
…すき。好きだよ、夕音。
「え?」
違う。違うよ、夕音。
「え?な、何?」
謝ることなんて何一つないんだよ。
「…え?」
ぽつぽつと途切れ途切れに聴こえてくる言葉は、耳ではなく心を揺らすもの。感覚的に、羅樹が口にした言葉ではなく心の声だと気付いた。けれど急に抱き締められたこととその言葉の内容に混乱した私は、相槌のように反応を返してしまうのを止められそうになかった。
やっと分かった。夕音を連れて行ってしまう何かの正体。夕音が見ているものが、夕音が聞いているものが、何かやっと知れた気がする。
あぁ、ずっと。
ずっと僕は、そいつらが嫌いだった。
大嫌いだった。
「…羅、樹…?」
夕音を連れて行ってしまう何かなんて、大嫌いだった。こっちを向いて欲しいってずっと思っていた。
「…っ」
それでも夕音が望むなら、夕音が幸せなら仕方ないって思った。夕音が笑顔でいてくれるなら、ここに居てくれるなら許してあげようって思った。
「羅、」
でも、夕音が望まないのなら。
あいつらよりも僕を選んだのなら。
夕音があいつらと共にいるべき理由にはならないだろう。
「っ!」
顔が熱くなる。羅樹の本音が、隠されることなく心に届く。羅樹は気付いているのか分からないけれど、何にも覆われていない羅樹の本音が、私の中に曝け出されていく。
知らなかった。
知っていた、つもりだった。
羅樹の1番は「私がここにいること」で、羅樹のことを好きかどうかなんて二の次だと思っていた。
『夕音が笑顔でそこにいてくれるなら、僕のことを好きじゃなくたって構わないから。
───だから、いなくならないで』
いつか聞いた羅樹の本音を、そのまま信じ込んでいた。羅樹が怖いのは"夕音を失うこと"であり、私の感情の向きは最優先事項ではないと思っていた。
だから、この先の言葉があるなんて知らなかった。気付かなかった。だって、分かるわけがない。心の声なんて聞こえても、人は自分にすら素直になっているとは限らない。時には自分すら騙して、嘘を吐いて、苦しみを隠して笑うんだ。自覚したら酷く痛むから。
だから、羅樹の本音のその先を、私は聞けていなかったのだ。
『───でも、やっぱり。
夕音がいなくなるのは嫌だから。
夕音が、僕を好きじゃないのは苦しいから。
───絶対に、渡さない』
『夕音の選択に、"僕"がなるんだ』
羅樹が蓋をしていた本当の気持ちが、何かを取り戻したように溢れ出した。
「…っえ?ら、羅樹?」
…すき。好きだよ、夕音。
「え?」
違う。違うよ、夕音。
「え?な、何?」
謝ることなんて何一つないんだよ。
「…え?」
ぽつぽつと途切れ途切れに聴こえてくる言葉は、耳ではなく心を揺らすもの。感覚的に、羅樹が口にした言葉ではなく心の声だと気付いた。けれど急に抱き締められたこととその言葉の内容に混乱した私は、相槌のように反応を返してしまうのを止められそうになかった。
やっと分かった。夕音を連れて行ってしまう何かの正体。夕音が見ているものが、夕音が聞いているものが、何かやっと知れた気がする。
あぁ、ずっと。
ずっと僕は、そいつらが嫌いだった。
大嫌いだった。
「…羅、樹…?」
夕音を連れて行ってしまう何かなんて、大嫌いだった。こっちを向いて欲しいってずっと思っていた。
「…っ」
それでも夕音が望むなら、夕音が幸せなら仕方ないって思った。夕音が笑顔でいてくれるなら、ここに居てくれるなら許してあげようって思った。
「羅、」
でも、夕音が望まないのなら。
あいつらよりも僕を選んだのなら。
夕音があいつらと共にいるべき理由にはならないだろう。
「っ!」
顔が熱くなる。羅樹の本音が、隠されることなく心に届く。羅樹は気付いているのか分からないけれど、何にも覆われていない羅樹の本音が、私の中に曝け出されていく。
知らなかった。
知っていた、つもりだった。
羅樹の1番は「私がここにいること」で、羅樹のことを好きかどうかなんて二の次だと思っていた。
『夕音が笑顔でそこにいてくれるなら、僕のことを好きじゃなくたって構わないから。
───だから、いなくならないで』
いつか聞いた羅樹の本音を、そのまま信じ込んでいた。羅樹が怖いのは"夕音を失うこと"であり、私の感情の向きは最優先事項ではないと思っていた。
だから、この先の言葉があるなんて知らなかった。気付かなかった。だって、分かるわけがない。心の声なんて聞こえても、人は自分にすら素直になっているとは限らない。時には自分すら騙して、嘘を吐いて、苦しみを隠して笑うんだ。自覚したら酷く痛むから。
だから、羅樹の本音のその先を、私は聞けていなかったのだ。
『───でも、やっぱり。
夕音がいなくなるのは嫌だから。
夕音が、僕を好きじゃないのは苦しいから。
───絶対に、渡さない』
『夕音の選択に、"僕"がなるんだ』
羅樹が蓋をしていた本当の気持ちが、何かを取り戻したように溢れ出した。
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