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3月15日 伝えたい空回り
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勇気を出したは良いものの、まず何から話すべきだろうかと逡巡する。今、私は恐らくこの世から消えていた筈だから、そこについて話そうか。それとも先に結論を言うべきだろうか。ぐるぐると迷う内に黙ってしまいそうになり、悩む唸り声が小さく唇から漏れる。
「あ、あのね、羅樹…っ」
「…うん?」
鼻の啜る音の隙間から、優しい声が聞こえる。その声に促されるまま、私は背中を押されるように言葉を滑らせた。
「わ、たし、私、神様の使なの」
自分の発言に、数秒してから気付いた。突拍子もないことだと前置きしていても、いくら何でも単刀直入が過ぎる。おかしくなったかと疑われても仕方ない言葉選びをしたことに慌てながら、何とかフォローの言葉を探す。
「違っ、くはないんだけど、えっと、なんていうかっ、今、多分急に帰って来たと思うんだけど、それは神様達の世界とこの世の狭間にいた?みたいなもので??小さい時とか、少し前に羅樹の前から消えたのも、同じようなものでっ!」
ぐちゃぐちゃになっていることは分かっている。けれど言葉を続けなければ、羅樹に説明は出来ず拒絶されるかもしれないという恐怖が、必死に私の口を動かしていた。抱き締め方は段々と縋るように変わっていく。指先で羅樹の背中を掻き、心臓がばくばくと嫌な音を立てる。震えるのは声か、体か。それすらも理解出来ないままに、浅い呼吸のまま話し続ける。
「私の中に、神様の使がいて。その人、人じゃないけど、その主人が、私の主人で。稲荷様って言うんだけど、私に、人の世のことが知りたいからって"恋使"って役目をくれて。それで、えぇと」
息が上手く吸えない。何を言っているのかわからないし、話せているのかも分からない。羅樹の肩に埋めた視界は暗闇ばかりで、まだ先程の空間に囚われているような気分になってくる。もしかしたら私の覚悟も私が飛び込んだのも全部あの闇が見せている幻で、私は今もあの暗闇に囚われているのではないだろうか。あの、恋心の仄暗い部分を具現化したような、酷くどろどろとした痛い空間の中に。
回る思考が鈍くなったところで、羅樹の手が私の頭を撫でた。驚いて体を離せば、羅樹は目を細めて微笑んでいる。その空色の瞳は眩しくて、空間は温かい。光に包まれたことに気付いて、私はこの世界が現実だと認識する。
「羅、樹」
「なぁに、夕音」
「それで、私は…」
「うん、大丈夫大丈夫。聞いてるよ。だから、ゆっくりでいいから。ね?」
撫でられる手付きは優しい。優しさに泣きそうになる。私は涙を堪えながら深呼吸をした。そしてやっと、羅樹に伝わるように落ち着いて話し始めたのだった。
「あ、あのね、羅樹…っ」
「…うん?」
鼻の啜る音の隙間から、優しい声が聞こえる。その声に促されるまま、私は背中を押されるように言葉を滑らせた。
「わ、たし、私、神様の使なの」
自分の発言に、数秒してから気付いた。突拍子もないことだと前置きしていても、いくら何でも単刀直入が過ぎる。おかしくなったかと疑われても仕方ない言葉選びをしたことに慌てながら、何とかフォローの言葉を探す。
「違っ、くはないんだけど、えっと、なんていうかっ、今、多分急に帰って来たと思うんだけど、それは神様達の世界とこの世の狭間にいた?みたいなもので??小さい時とか、少し前に羅樹の前から消えたのも、同じようなものでっ!」
ぐちゃぐちゃになっていることは分かっている。けれど言葉を続けなければ、羅樹に説明は出来ず拒絶されるかもしれないという恐怖が、必死に私の口を動かしていた。抱き締め方は段々と縋るように変わっていく。指先で羅樹の背中を掻き、心臓がばくばくと嫌な音を立てる。震えるのは声か、体か。それすらも理解出来ないままに、浅い呼吸のまま話し続ける。
「私の中に、神様の使がいて。その人、人じゃないけど、その主人が、私の主人で。稲荷様って言うんだけど、私に、人の世のことが知りたいからって"恋使"って役目をくれて。それで、えぇと」
息が上手く吸えない。何を言っているのかわからないし、話せているのかも分からない。羅樹の肩に埋めた視界は暗闇ばかりで、まだ先程の空間に囚われているような気分になってくる。もしかしたら私の覚悟も私が飛び込んだのも全部あの闇が見せている幻で、私は今もあの暗闇に囚われているのではないだろうか。あの、恋心の仄暗い部分を具現化したような、酷くどろどろとした痛い空間の中に。
回る思考が鈍くなったところで、羅樹の手が私の頭を撫でた。驚いて体を離せば、羅樹は目を細めて微笑んでいる。その空色の瞳は眩しくて、空間は温かい。光に包まれたことに気付いて、私はこの世界が現実だと認識する。
「羅、樹」
「なぁに、夕音」
「それで、私は…」
「うん、大丈夫大丈夫。聞いてるよ。だから、ゆっくりでいいから。ね?」
撫でられる手付きは優しい。優しさに泣きそうになる。私は涙を堪えながら深呼吸をした。そしてやっと、羅樹に伝わるように落ち着いて話し始めたのだった。
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