神様自学

天ノ谷 霙

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sweet fighter! 明(短編)

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「え、やば…」
「何処に入ってるの…?」
ざわざわとこちらを指す声が大きくなった頃、私は桜が持って来てくれた2皿を、綺麗さっぱり欠片も残さず食べ切っていた。声を聞く限り、どうやら10分も掛かっていないらしい。胃が私ほど大きくない人では90分全てを費やしても食べ切れない量だったらしいが、そんなことは私の胃には関係ない。
「はーい、追加っすよー!」
桜が持って来てくれたのは、どれも私がもう1度取ろうと思っていたスイーツばかりだ。何故分かったのかと驚くが、今はそれを聞くよりスイーツを優先したい。時間制限もあるし、一定金額でお腹いっぱい食べられる絶好のチャンスだ。逃したくはない。
「ありがとう」
お礼は口に出すよう努力して、追加の皿を受け取る。また同じくらいの量が乗っていて、私の頬が紅潮した。美味しそうだ。それを好きなだけ食べられる幸せが、私の心を震わせる。
「いやー、本当美味しそうに食べるっすね」
「? 何か言った?」
「いーえ!次は何取ろうか考えてただけっす」
にっと笑う桜の表情は爽やかだ。その視線を独り占めしている事実が嬉しくて、そして少しだけ照れくさくて、私はスイーツに視線を落とす。甘いクリームにカスタード、ジャムに蜂蜜。抹茶やチョコレート、プレーンにレーズン。苺、オレンジ、バナナなどのフルーツ。ゼリーにジュレ、ケーキにクッキー、アイス、他にもたくさんのスイーツが掬われては私の口へ運ばれていく。動かす手が止められず、ほくほくと次のスイーツを食べていたら、急に店員さん達が慌ただしく動き始めた。何かと思って視線を動かせば、桜がくすくすと笑って教えてくれた。
「取りすぎちゃったっすかねぇ…もうほとんど空にしちゃったし…」
なるほど。食べ放題用のスイーツが枯渇しているらしい。入って来たばかりの時は所狭しと並んでいたスイーツ達が、今はその皿のほとんどを空にして鎮座している。行ったり来たりを繰り返す店員さんが新しいスイーツを用意しては、空の皿を下げる作業を繰り返していた。しかしそれは私の皿も同じで、そろそろ桜が追加で取って来てくれた1皿目が終わってしまう。
「もう1皿、行ってくるっすね!」
元気に告げた桜の言葉は、唖然として黙り込んでしまった店内によく響いた。私はこくりと頷き、「お願い」と呟く。その言葉は店員さんにとっては絶望だったようで、膝から崩れ落ちる音がした。
直接的に言われてないし、まだ食べても大丈夫だよね。
2皿目に差し掛かり、私はまだ余裕のある腹をさすって舌舐めずりをした。
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