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揺さぶりrespond 光
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どくんどくんと、胸の奥がうるさく鳴り響く。こんな胸の痛み、知らなかった。夏川が、そんな顔で笑うなんて知らなかった。いつだって無愛想で、何かに苛立ってるように見えて、けれど本当は親友のことが大好きで、嫌われ者を演じて彼女の防波堤になっている女の子だった。桐竜に近寄ろうとする男が、自分が近くにいると側に行きにくいと理解していて離れないように努めている様子だった。桐竜がこれ以上無責任な好意に晒されて苦しまないよう、周りを見張っているようだった。自分だって桐竜に嫉妬していたのに、それ以上に大切だからと守って。相反する2つの感情を抱えながら他者を大切に出来る女の子だと、知っていたのに。
そんな彼女の"大切"の範囲に入っていることが、こんなにも嬉しいのか。
「…っ俺、は、ずっと桐竜が好きで、でも来に取られて、すぐに稲森を好きになった、大馬鹿者だぞ」
何か話さなければという焦燥感が、意味の分からない話題を切り出す。何を言いたいのか自分でも理解出来ない。それなのに夏川は、うん、と小さく頷いただけだった。その優しい微笑みが、余計に焦らせる。
「取られたって言うのもおかしいんだけどな。俺、行動した訳じゃないし。稲森の時だって、告白してすぐに態度を変えて、わざと噂を流して。わざと周囲を煽って、そんな、馬鹿なことして」
「うん」
「そんな、ところも、ずっと見て来たんだよな」
「うん」
「それなのに、俺のこと、見限らないでくれたんだな」
「だって、好きだもの」
何度言われたのか、もうわからない。その言葉に動きが止まる。夏川の真っ直ぐな思いが胸を打ち鳴らして苦しい。わからない。もう、わからない。答えたいのか、そんな真っ直ぐな思いを向けられる資格はないと見限って欲しいのか、もう何もわからない。
「…っ」
言葉が切れる。何を言うべきかと逡巡していると、夏川が急に距離を詰めて来た。覚悟を決めた瞳が、キラキラと陽光を反射して美しい。宝石のような気高い輝きが、俺を真っ直ぐに射止める。
「言い訳はそれだけ?」
「…え」
「さっきも言ったでしょ、光。アタシの告白に少しでも心は動いた?それなら、光は"はい"って言うだけでいいの」
至近距離で瞬く瞳に、体が熱を帯びる。こんなの、心が動かない方がおかしくて。揺さぶられて、感情を見透かされて、俺は無意識に呟いていた。
「は、い」
その言葉に、満足そうに笑った夏川は、その勢いのまま俺の襟を掴む。あの時と一緒だと思った瞬間には、もう既に唇に柔らかいものが触れていた。
「いつか、ちゃんと好きだって言わせるから。覚悟してなさいよ」
「…は、はい」
俺はもうそれ以上、何も言うことは出来なかった。
そんな彼女の"大切"の範囲に入っていることが、こんなにも嬉しいのか。
「…っ俺、は、ずっと桐竜が好きで、でも来に取られて、すぐに稲森を好きになった、大馬鹿者だぞ」
何か話さなければという焦燥感が、意味の分からない話題を切り出す。何を言いたいのか自分でも理解出来ない。それなのに夏川は、うん、と小さく頷いただけだった。その優しい微笑みが、余計に焦らせる。
「取られたって言うのもおかしいんだけどな。俺、行動した訳じゃないし。稲森の時だって、告白してすぐに態度を変えて、わざと噂を流して。わざと周囲を煽って、そんな、馬鹿なことして」
「うん」
「そんな、ところも、ずっと見て来たんだよな」
「うん」
「それなのに、俺のこと、見限らないでくれたんだな」
「だって、好きだもの」
何度言われたのか、もうわからない。その言葉に動きが止まる。夏川の真っ直ぐな思いが胸を打ち鳴らして苦しい。わからない。もう、わからない。答えたいのか、そんな真っ直ぐな思いを向けられる資格はないと見限って欲しいのか、もう何もわからない。
「…っ」
言葉が切れる。何を言うべきかと逡巡していると、夏川が急に距離を詰めて来た。覚悟を決めた瞳が、キラキラと陽光を反射して美しい。宝石のような気高い輝きが、俺を真っ直ぐに射止める。
「言い訳はそれだけ?」
「…え」
「さっきも言ったでしょ、光。アタシの告白に少しでも心は動いた?それなら、光は"はい"って言うだけでいいの」
至近距離で瞬く瞳に、体が熱を帯びる。こんなの、心が動かない方がおかしくて。揺さぶられて、感情を見透かされて、俺は無意識に呟いていた。
「は、い」
その言葉に、満足そうに笑った夏川は、その勢いのまま俺の襟を掴む。あの時と一緒だと思った瞬間には、もう既に唇に柔らかいものが触れていた。
「いつか、ちゃんと好きだって言わせるから。覚悟してなさいよ」
「…は、はい」
俺はもうそれ以上、何も言うことは出来なかった。
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