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3月10日 涙と清算
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冷たく、それでいて温かいものが爽の頬を滑り落ちていく。ぼろぼろと零れていく爽の涙は、まるで「好き」という気持ちが溢れて止まらなくなったかのようだ。それだけ好きなのだろう。それだけ不用意な優しさに惚れて、期待して、傷ついて、燻ってきたのだ。恋は甘いだけじゃない。優しさなんて何処にもない。恋は残酷だ。人の醜さが簡単に出て来るし、それでいて綺麗なところだけを象ったみたいに素敵な景色を見せてくれる。どちらも兼ね備えた厄介な感情。それが"恋"というものだ。
「爽」
手を伸ばせば、私の指先が雫に濡れる。爽は眉尻を下げて眉間に皺を寄せ、子供のように感情を表した。そこに甘ったるい恋の幸せなんてない。好きになれたことが嬉しいと言う人もいるけれど、その中に爽のような葛藤がなかったとは思えない。きっと相手の一挙手一投足に心が揺れ動いて、動くことが出来なくなった末の思考なのだ。結ばれることが出来るなら、それを蹴る選択肢なんてない。
「ア、タシ…アタシ……っと、ずっと、光が…っ光の、優しさが、苦しくて…っ痛くて、嬉しいのに、辛くて…っどうしてそんなこと思うんだろって、アタシ、自分が憎くて。嫌で、でもそんな気持ち、光を見たら忘れちゃって、光が、光がっ」
泣きじゃくる爽の頬からそっと涙を掬って、宥める。好きなんだと全力で叫んでいる。心の底から、隠しておけないほどに大きくなった恋心が苦しいと泣き叫んでいる。
北原くんも、そうだったのだろうか。
亜美のことが好きで振り向いてもらえなかった間も、私のことを好きになったあの時も、隠し通さず態度に示したあの日々も、ずっと心では叫んでいたのだろうか。
誰かこの想いを受け取って、と。
返されない想いを抱え続けるのは苦しい。今目の前で爽が泣き叫んでいるように、自分の心を受け止めてもらえないのは怖い。だからといって同情で受け止めるのも違うと思うから、恋は難しい。
「アタシ、アタシ、は…っ」
爽はしゃくりあげながら言葉を紡ぎ続ける。時折鼻を啜る音やひっくり返る声もあるけれど、それでも懸命に自分の心を言葉にしていく。取り出したハンカチはぐしゃぐしゃに濡れて、爽の顔からもう離れない。くぐもった声で紡がれる爽の訴えは、何かを吐き出すかのように絶えず続けられた。
十数分気持ちを語り続けて、爽は真っ赤に腫れた目に困った顔をしながら顔を上げた。私は水とおしぼりを取ってきて、爽を冷やしてやる。
言い切った爽は、何処かスッキリした顔をしていた。
「爽」
手を伸ばせば、私の指先が雫に濡れる。爽は眉尻を下げて眉間に皺を寄せ、子供のように感情を表した。そこに甘ったるい恋の幸せなんてない。好きになれたことが嬉しいと言う人もいるけれど、その中に爽のような葛藤がなかったとは思えない。きっと相手の一挙手一投足に心が揺れ動いて、動くことが出来なくなった末の思考なのだ。結ばれることが出来るなら、それを蹴る選択肢なんてない。
「ア、タシ…アタシ……っと、ずっと、光が…っ光の、優しさが、苦しくて…っ痛くて、嬉しいのに、辛くて…っどうしてそんなこと思うんだろって、アタシ、自分が憎くて。嫌で、でもそんな気持ち、光を見たら忘れちゃって、光が、光がっ」
泣きじゃくる爽の頬からそっと涙を掬って、宥める。好きなんだと全力で叫んでいる。心の底から、隠しておけないほどに大きくなった恋心が苦しいと泣き叫んでいる。
北原くんも、そうだったのだろうか。
亜美のことが好きで振り向いてもらえなかった間も、私のことを好きになったあの時も、隠し通さず態度に示したあの日々も、ずっと心では叫んでいたのだろうか。
誰かこの想いを受け取って、と。
返されない想いを抱え続けるのは苦しい。今目の前で爽が泣き叫んでいるように、自分の心を受け止めてもらえないのは怖い。だからといって同情で受け止めるのも違うと思うから、恋は難しい。
「アタシ、アタシ、は…っ」
爽はしゃくりあげながら言葉を紡ぎ続ける。時折鼻を啜る音やひっくり返る声もあるけれど、それでも懸命に自分の心を言葉にしていく。取り出したハンカチはぐしゃぐしゃに濡れて、爽の顔からもう離れない。くぐもった声で紡がれる爽の訴えは、何かを吐き出すかのように絶えず続けられた。
十数分気持ちを語り続けて、爽は真っ赤に腫れた目に困った顔をしながら顔を上げた。私は水とおしぼりを取ってきて、爽を冷やしてやる。
言い切った爽は、何処かスッキリした顔をしていた。
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