神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
657 / 812

3月7日 亜美と来

しおりを挟む
北原くんは語り続ける。中学のある日、本気になった恋心の相手を。彼女に興味のなかった純粋な友人を。先程まで"桐竜"と名字で呼んでいたのに、急に下の名前に変わったということはそれだけ本気だったのだろう。忘れられない相手だったのだろう。
私は黙って北原くんの言葉を聞いていた。
「1年生の時は他クラスだったこともあって、あんまり喋らなかった。それでも相変わらずモテてることは聞いてたけど。来も違うクラスだったけど、こっちも変わらず俺と仲良くしてくれて。亜美と喋れないのは残念だけど、結構楽しかった。それが2年になってすぐ、亜美と来が2人で出掛けたって話を聞いたんだ。どうしてって思ったし、見間違いじゃないかとも思った。来に確認したら、本当だったけど。俺はその瞬間、本気で来を嫌いになりかけた。憎くて、悔しくて、友達なんかじゃないって思ったんだ。酷い話だよな、来は今も俺に優しいのに」
北原くんは深く息を吐いて遠い目をする。ずっと前から好きな相手が親友と一緒にいたのだ。しかも男女2人きり。いつ仲良くなったのかも分からない。焦燥感に苛まれるのも無理はないと思う。私も友達の誰かが羅樹と2人で出掛けていたら嫌だし、その子のことを嫌いになると思う。どんなに仲が良かったとしても、良い子だと分かっていても苦しくて、そんな自分が嫌いになるのだ。例え私が羅樹と恋人同士ではなく、嫉妬して間に入る理由がなかったとしても。
「…好きなんだから、当然じゃない?」
乾いた喉で精一杯言葉を捻り出すと、北原くんはこちらを向いて、悲しそうに笑った。
「そうだな。けど俺は…」
きっと北原くんも同じなのだろう。亜美と潮賀くんの関係に嫉妬して、2人を嫌いになることが出来なくて、自分に負の感情を向けてしまったのだ。苦しみを抱え込んで、密かに封じるしかなかった。きっと潮賀くんに亜美への恋心を伝えれば、優しい彼は簡単に身を引いて、自覚する前に恋を終わらせてしまうから。
一旦言葉を止めた北原くんは、再度口を開く。
「…亜美が、幸せそうだったんだ」
「え?」
「来といる時の亜美は、何かに怯えて線を引く様子がなかった。中学の時は、モテてはいたけど誰も彼もに気を持たせるような行動はしなかった。本当平坦。女子も男子も関係なく、誰が見ても誰に対しても同じ対応。1歩引いた、流すような対応だった。けど来には違った。懐いてるみたいに態度を緩めて、一緒にいるときは安心してるみたいだった」
目を細めて、亜美の表情を思い出す北原くん。私は1年生の時の亜美は噂でしか知らないけれど、確かに潮賀くんと一緒にいる時の亜美は、いつでも1番可愛らしいと思う。
恐らく潮賀くんが、亜美の心を溶かしたのだ。
そんなことは、中学の時から2人の側にいた北原くんが1番知っているのだろうけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...