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3月3日 心のうち
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揺らめいた空気の間から、オレンジ色の光を伴って現れた伏見 恋音。薄い金色の髪には彼岸花が飾られており、そのコントラストが巫女服の上に羽織った白い千早にとても映えている。朱色の瞳と白い肌も同じように陰影を際立たせ、ふわりとその場に座り込んだ。
「私、私…知らなく、て。ヒトに向けられた感情が怖くて、苦しくて、もう2度と関わりたくないって思ったのに、ヒトに恵みをもたらす稲荷様の姿はずっと見ていたくて。分からなくなって、それで、それで…」
「伏見…」
「ヒトとはいたくない、稲荷様とは一緒にいたいってことばかり考えていて、使としての仕事が出来ていないということから、目を背けていました。だから稲荷様にヒトともう1度関わらないかと聞かれた時、ここでまた失敗したら稲荷様の側には居られないと思って、それで、逃げていました…ごめんなさい…っ」
大粒の涙を零しながら、繰り返し謝罪の言葉を呟く恋音。
"ヒトが嫌い"だと言い続けたのは、ヒトと関わる役目から逃れる為。更に言えば、その役目を熟せなかった時に訪れるであろう、稲荷様の使という役目を奪われない為。稲荷様と共に過ごす時間をなくさない為。
恐らく恋音の1番は、"稲荷様と繋がり続けること"なのだろう。微かな繋がりであったとしても、縋り続けてしまう程に大切な縁。だから忘れられることを恐れ、新しい使が出来たことに怯えた。けれどその使は自分が宿っている相手であり、きっとヒトとの関わりを見直すくらいには情があったから見殺しにするなんて出来なかった。そうでなかったら私は、羅樹の真意にも気付けないまま虹様に殺されていた筈だから。
簡単に言ってしまうのは、実際に私は生きていて、虹様も過ちを認めてくれたからだろう。この1年で何度も命のやり取りをして、傷付いて、傷付けて、たくさんの心の動きを見て来た。膨大な記録を見て来た。神様との繋がりを含め、たくさんのことを自分で学んで来た。それが今の私を、現恋使を作り上げたものだ。
「わたしも、すまなかった。わたしはお前が、伏見がまたヒトと関われなかったら、役目から下ろすつもりだった」
「っ!」
「伏見の幸せは此処にはないのではないかと考えてしまっていた。また苦手なヒトとの関わりを強要される恐怖に晒されるよりは、我らの地で長閑に暮らす方が良いのではないかと考えていた。お前の気持ちを考えているようで、考えられていなかった。すまない」
「稲荷、様…」
「わたしは伏見が望むなら使のままでいてほしい。わたしはお前の幸せを、誰よりも近くで見ていたいのだ」
「…っ稲荷様…!私も、私の幸せはいつも、稲荷様の側に…っ!」
"晴れ"の気配がする。心地良い春風が吹いて、温かく気持ちの良い空気に包まれていくような、そんな気持ちになる。
青空に吹き抜けていく花びらが、私達を包み込むように舞い踊った。
「私、私…知らなく、て。ヒトに向けられた感情が怖くて、苦しくて、もう2度と関わりたくないって思ったのに、ヒトに恵みをもたらす稲荷様の姿はずっと見ていたくて。分からなくなって、それで、それで…」
「伏見…」
「ヒトとはいたくない、稲荷様とは一緒にいたいってことばかり考えていて、使としての仕事が出来ていないということから、目を背けていました。だから稲荷様にヒトともう1度関わらないかと聞かれた時、ここでまた失敗したら稲荷様の側には居られないと思って、それで、逃げていました…ごめんなさい…っ」
大粒の涙を零しながら、繰り返し謝罪の言葉を呟く恋音。
"ヒトが嫌い"だと言い続けたのは、ヒトと関わる役目から逃れる為。更に言えば、その役目を熟せなかった時に訪れるであろう、稲荷様の使という役目を奪われない為。稲荷様と共に過ごす時間をなくさない為。
恐らく恋音の1番は、"稲荷様と繋がり続けること"なのだろう。微かな繋がりであったとしても、縋り続けてしまう程に大切な縁。だから忘れられることを恐れ、新しい使が出来たことに怯えた。けれどその使は自分が宿っている相手であり、きっとヒトとの関わりを見直すくらいには情があったから見殺しにするなんて出来なかった。そうでなかったら私は、羅樹の真意にも気付けないまま虹様に殺されていた筈だから。
簡単に言ってしまうのは、実際に私は生きていて、虹様も過ちを認めてくれたからだろう。この1年で何度も命のやり取りをして、傷付いて、傷付けて、たくさんの心の動きを見て来た。膨大な記録を見て来た。神様との繋がりを含め、たくさんのことを自分で学んで来た。それが今の私を、現恋使を作り上げたものだ。
「わたしも、すまなかった。わたしはお前が、伏見がまたヒトと関われなかったら、役目から下ろすつもりだった」
「っ!」
「伏見の幸せは此処にはないのではないかと考えてしまっていた。また苦手なヒトとの関わりを強要される恐怖に晒されるよりは、我らの地で長閑に暮らす方が良いのではないかと考えていた。お前の気持ちを考えているようで、考えられていなかった。すまない」
「稲荷、様…」
「わたしは伏見が望むなら使のままでいてほしい。わたしはお前の幸せを、誰よりも近くで見ていたいのだ」
「…っ稲荷様…!私も、私の幸せはいつも、稲荷様の側に…っ!」
"晴れ"の気配がする。心地良い春風が吹いて、温かく気持ちの良い空気に包まれていくような、そんな気持ちになる。
青空に吹き抜けていく花びらが、私達を包み込むように舞い踊った。
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