神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
138 / 812

喧騒again 霙(短編)

しおりを挟む
これは私が中学の時の話。
高校まで付き合いがある中では、私、雪、富、明、紗奈、竜夜が同じ中学の出身である。

「勝負だ竜夜!!」
「受けて立つ!!」
目の前の男、竜夜はにやっと笑った。竜夜は、私の永遠の宿敵だ。私はそう思った。
~*~*~*~*~*~*~*~*~
少し時を遡って、ホームルームが終わった頃。いつものように紗奈を呼びに行った。紗奈は隣のクラスで、いつも一緒に帰る仲である。
「おーい紗奈ー!」
ドアを開けて呼ぶと、紗奈はくるりと振り返った。
「あっ、霙!」
内巻きになり、肩につかないくらいの短い髪を風になびかせながら振り返った。教室には紗奈しかいなかった。
「おーっかえ、ろ…どうしたの?」
「ちょっと提出してこなきゃいけないものがあって…。先帰ってていーよ?」
「いや、待ってる。いってらっしゃい」
私はうきうきと紗奈の椅子に座り、手を振って紗奈を送り出した。紗奈は少し戸惑ったが、まぁいいかとでも言うように手を振り返して職員室へ向かった。
2、3分経った頃だろうか。ガラッとドアが開いた。私は下校する生徒と夕暮れを見ながら頬杖をついていた。
「お、紗奈。早かった…な!?」
ろくに確認もせず紗奈だと思い込み振り返る。するとドアのところに立っていたのは紗奈ではなく竜夜だった。
「なんだ竜夜か」
特に感情も示さず声を出す。ぼうっとしながら窓の外をもう一度見る。
「な、なんだじゃねぇよ!なんでお前がそこに座ってるんだよ!」
「え?…んー…」
私は振り向いて、首をかしげる。そして考えることを放棄していた頭を起こし、考える。
「さっき紗奈がこの席の引き出しを漁ってたから」
「そこは俺の席だぞ!?」
やっと竜夜が焦っている理由に気付いた。
え?でもさっき…確かに紗奈はこの引き出しからーーー。
「なんなんだよ全く…。おい、そっちに寄れ」
「ん」
命令口調だったので特に逆らわず椅子に座ったまま後ろに寄る。がさごそ音がしたかと思うと「あれ?」だの「おかしいな…」だの声が聞こえた。
「騒がしいな…なんだ?」
「いや、俺の数学のノートが無くて…。今日提出だったから、絶対持ってきた筈なのに…」
「数学のノート?何色だ?」
「青」
私は眠い目を擦りながら頭を回転させる。確か紗奈が持っていたのは…。
「青!」
しばらく経って私がいきなり言葉を発したのに驚いた竜夜は、びくっと肩を震わせ振り向いた。
「な、なんだよ…青いノートだけど…」
「そうじゃなくて、青!紗奈が持って行ったノートも青なんだよ!」
「…え?」
多分、紗奈は竜夜が今日ノート提出する事を知っていて、でも竜夜がノートを持って行かずに何処かへ行ったから代わりに持って行ったのだろう。紗奈らしい。
「ふーん…そ、そうか…」
私の推測を聞いて、竜夜はちょっと戸惑い、口元を腕で覆った。
「彼奴にも、優しいところがあるんだな」
ぽつりと呟いた声に、妙にイラっとくる。
「は?何言ってるんだ?紗奈は優しいだろ」
「え?いつも俺に突っかかってくるし怖いからあんま感じねーわ」
「…そ、そうなのか…?」
突っかかってくる?怖い?紗奈が?
訳もわからず混乱してきた頭を必死に整理する。そんな時。
「…ところで」
いきなり竜夜が私に話を振った。
「お前、雪に告白しないのか?」
「は…??」
更に混乱する頭。
なんだ?何を言っている??
「いや、お前ら仲良いし…成功するだろうな、と思っただけだ」
慌てて首を振る竜夜。もしかして。
「お前、好きな奴でもいるのか?」
一瞬の静寂。
「はぁ!?!?お、お前…何言って!?」
慌てて叫ぶが耳は真っ赤に染まっていて。図星のようだ。
「ふーん?誰だ?」
にやにやしながら聞く。竜夜は恥ずかしそうに首を横に振って、
「お前には教えない!!」
と叫んだ。面白くってからかっていたら竜夜も言い返してきた。
「うるさい!お前はとっとと雪に告白すればいいんだよ!」
一瞬、何を言われたか分からなかった。
「は、はぁ!?なんでそうなるんだよ!」
私の耳が熱くなった。多分、真っ赤なのだろう。それに気付いたらしい竜夜は、さっきまで慌てていたくせに、にやりと笑って私をからかい始めた。
「ん?お前が雪を好きだってバレバレだから」
ガタン
私は椅子から勢いよく立ち上がった。
「はぁ!?何言って!?」
「えー?事実?」
にやにや笑う竜夜に腹が立った私はつい、叫んでしまった。
~*~*~*~*~*~*~*~*~
そんなこんなで冒頭に戻る。何で勝負しようかとか、勝負したらどうしようか、なんて考えず自然と口が動いていた。
「俺が勝ったら告白しろよ!」
「私が勝ったら告白して結果報告な!」
端から見たら、後ろから炎が見えるんじゃないか、というくらい白熱していた。まぁ、誰もいないのだが。
「いくぞっ」
「おうっ」
「「じゃんけんっ」」
無意識にじゃんけんしていた。手元を見ると私がパーで、竜夜がチョキ。私は、負けたのだ。
「…約束だ、いってこい」
「…わかったよ…」
悔しかったが、ドアの前で立ち止まり
「竜夜…ありがとな」
と呟いた。
その小さな声が聞こえたようで
「ぉぅ」
と小さな返事が来た。

神社の前。あまり着ない巫女服を着て、箒を持って待っていた。
道行く人々がひそひそと噂をしているのが聞こえた。私は滅多に巫女服で出てこないので[見れたらラッキー]とか噂になっているようだった。
丁度その時、目の前を通った男がびっくりしたように目を丸くして私を見つめた。
「ゆ、き…」
「み、みぞれ??」
信じられないというように瞬きをし、私に近付いた。私は、巫女服をぎゅっと掴んで、
「冬間、雪…くん。好きです。付き合ってください」
しっかりと目を合わせて丁寧に告白した。雪はまた、信じられない、と目を見開いたが、
「…俺も、好きです」
と答えてくれた。嬉しくてたまらなかった。
ちょっとだけ、竜夜に感謝しよう。あくまで、ちょっとだけ。
しおりを挟む

処理中です...