神様自学

天ノ谷 霙

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きんいろと、あかいろと、ももいろ

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暗闇の中に、とぷりと沈んでいく。
輪郭はぼやけて、自身の情報が欠けて行く。
私はだぁれ。
わたしは、なぁに。
解けていく私を、黒が包んでいく。

わ、タ、シ、は、───。

『夕音!』

反射的に目を開く。一瞬前まで暗闇でしかなかった世界が、オレンジに、黄緑に、金に、赤に、桃色に、カラフルに染まっていく。リボンのように伸びて交差していく色が、鮮やかに混ざり合い反射し合って私の世界を創造していく。重かった体は唐突な浮遊感に襲われ、海の底から天を見上げるように顔を上げれば、そこには空の色が広がっていた。青と白の中間色で、晴れた日の綺麗な空の色。私が1番好きな色。私が1番愛している色。
稲森 夕音わたしが、好きな人の色。

『夕音っ!』

溶けていた輪郭が形を取り戻す。気付かないうちに明け渡していた力が私のものとして戻って来る。私を呼ぶ声が耳に、世界に反響して、私を取り戻していく。
「…あぁ、なんだ」
何がわかったのか、私には理解出来ない。けれど感覚的に何かに気付いて、私はホッと安堵した。
私と稲荷様を繋いだ力は、恋音こいねさんのものだと思っていた。全部恋音さんのもので、恋音さんがいなかったら私は稲荷様と出会うことも、皆の恋心に触れることも、私が一歩踏み出すことも出来なかったのだと思ってしまった。この濃密な1年間は、稲荷様と恋音さんのものなのではないかと思ってしまった。私はただの媒介で、存在しているけれど不必要なもの。そんな気持ちになってしまった。
「…違うよ」
私と稲荷様の絆はしっかりと形成されているし、私と恋音さんだって一緒にいただけで別の者だ。力が似ているとしても、それは別のものだ。

私は私、稲森 夕音でしかないんだ。


私の背後で、大きな魔法陣が展開される。時折力を発揮する際に現れる、金色と赤色と桃色の混ざったもの。蓮乃くんが此方側に接することが出来ると知って稲荷様に引き合わせた時、私はオレンジ色を宿していると言われた。けれどそれには段々と金や赤、桃色が混ざっていき、今私の後ろで展開された色の中に、オレンジは存在しない。
きっと、蓮乃くんに恋音さんを会わせたら「オレンジ色が見える」と言うのだろう。
私のいろではなく、恋音さんのちからだったから。
私は指を組んで、祈るように念を込めた。風が逆巻き、私の周りを金と赤と桃が混ざり合って弾け合う。私の髪が風に煽られて波を描き、巫女の袴がいつもの赤色ではなく、陣と同じ色へと変化していく。狐の耳も尻尾も、黄金色の毛先が薄い赤へと染まっていく。

「繋げ 紡げ お前の 最奥の 記憶」

恋音さんじゃなく、私の力で。
始まりの前の話を、知りたい。
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