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まよいのいろ
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10046日目。
探しモノは今日も見つからない。1日数本の枝を読み解けるようになったとしても、今日探しモノが探そうとした桜にあるかはわからない。
12011日目。
稲荷様は、桜から効率よく必要情報だけを抜き取れるようになったらしい。1輪を見る時間はかなり絞られ、多くの桜を見られるようになっていた。しかし必要な情報のみを読み解くといっても、見る度に入ってくる膨大な情報を絞ることは出来ない。
14553日目。
毎日繰り返される単純作業。ヒトの時間で言うとかなりの時が経っているが、神様の時間で言うとあっという間なのだろう。稲荷様は今日も空き時間にここへ来ては、出来るだけ多くの桜を探し、彼女を探している。
15921日目。
時々、頭上を埋め尽くすほどに桜が咲くことがある。もしかしたら地上で何かあったのかもしれない。歴史と照らし合わせればきっとわかるのだろうが、私の知る歴史とは何だったのか、ちょっと、思い出せない。
17387日目。
稲荷様が何かを探し続けている。私はそれを知っている筈なのに、見た筈なのに、何だったのか記憶を探っても出てこない。そもそも私の記憶とは、私とは、一体、何だったか。
18183日目。
今日もだめだった。今日も稲荷様は首を横に振っている。どれだけ時が経ったとしても忘れていないようだ。羨ましい。何故。どうして。私は、何が羨ましいのだろう。
「いた」
18184日目。つまり、49年と287日目。
稲荷様がポツリと呟いた。その声に反応した兎様が巻物を作る手を止め、稲荷様の元へと駆け寄る。指し示された桜を見て、その桜用の記録を引っ張り出す。そして、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「彼女は名無しの孤児ですね。他のヒトよりも此方の世界に近い為、容姿が異なり迫害を受けた。所属組織…村?から疎まれていた。けれどその村、引いてはその周辺の世界における行いが良くないと判断した結果、此方側の介入が行われました。今回は大飢饉のようですね。そしてその末に、彼女は村人達によって殺された」
「あぁ、間違いない。わたしの姿も見えていた。力は此方に近かった」
「では、試練は合格ね」
背後から聞こえた声に、稲荷様と兎様が振り向く。いちごみるく色のボブヘアが揺れて、シックなフリルやレースのついた装いに身を包んだ魂の管理人が現れる。参事 読様だ。
「貴方の勝ちよ、稲荷。わたくしは貴方が早々に諦めると思っていたわ。わたくし達が肩入れするには、あまりにもちっぽけすぎるもの」
パンッと手を叩いて、使に指令を出した読様はその桜に手を伸ばす。
「──待ってくれ!」
その場にいた者全員に聞こえる声で、稲荷様が叫んだ。
探しモノは今日も見つからない。1日数本の枝を読み解けるようになったとしても、今日探しモノが探そうとした桜にあるかはわからない。
12011日目。
稲荷様は、桜から効率よく必要情報だけを抜き取れるようになったらしい。1輪を見る時間はかなり絞られ、多くの桜を見られるようになっていた。しかし必要な情報のみを読み解くといっても、見る度に入ってくる膨大な情報を絞ることは出来ない。
14553日目。
毎日繰り返される単純作業。ヒトの時間で言うとかなりの時が経っているが、神様の時間で言うとあっという間なのだろう。稲荷様は今日も空き時間にここへ来ては、出来るだけ多くの桜を探し、彼女を探している。
15921日目。
時々、頭上を埋め尽くすほどに桜が咲くことがある。もしかしたら地上で何かあったのかもしれない。歴史と照らし合わせればきっとわかるのだろうが、私の知る歴史とは何だったのか、ちょっと、思い出せない。
17387日目。
稲荷様が何かを探し続けている。私はそれを知っている筈なのに、見た筈なのに、何だったのか記憶を探っても出てこない。そもそも私の記憶とは、私とは、一体、何だったか。
18183日目。
今日もだめだった。今日も稲荷様は首を横に振っている。どれだけ時が経ったとしても忘れていないようだ。羨ましい。何故。どうして。私は、何が羨ましいのだろう。
「いた」
18184日目。つまり、49年と287日目。
稲荷様がポツリと呟いた。その声に反応した兎様が巻物を作る手を止め、稲荷様の元へと駆け寄る。指し示された桜を見て、その桜用の記録を引っ張り出す。そして、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「彼女は名無しの孤児ですね。他のヒトよりも此方の世界に近い為、容姿が異なり迫害を受けた。所属組織…村?から疎まれていた。けれどその村、引いてはその周辺の世界における行いが良くないと判断した結果、此方側の介入が行われました。今回は大飢饉のようですね。そしてその末に、彼女は村人達によって殺された」
「あぁ、間違いない。わたしの姿も見えていた。力は此方に近かった」
「では、試練は合格ね」
背後から聞こえた声に、稲荷様と兎様が振り向く。いちごみるく色のボブヘアが揺れて、シックなフリルやレースのついた装いに身を包んだ魂の管理人が現れる。参事 読様だ。
「貴方の勝ちよ、稲荷。わたくしは貴方が早々に諦めると思っていたわ。わたくし達が肩入れするには、あまりにもちっぽけすぎるもの」
パンッと手を叩いて、使に指令を出した読様はその桜に手を伸ばす。
「──待ってくれ!」
その場にいた者全員に聞こえる声で、稲荷様が叫んだ。
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