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はじまりのいろ
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稲荷様の大きな声に、読様も兎様も目をぱちくりと見開いている。かくいう私も驚いて、稲荷様の次の言葉を待った。
「待ってくれ、読」
焦った様子で顔を上げる稲荷様。何だと首を傾げる読様をまっすぐ見つめ、真剣な顔で問いかける。
「先に一つ聞かせてくれ。彼女の記憶はどうなる?生きていた時のことは覚えているのか、それとも」
「覚えているわけないでしょう」
読様が手に持っていた巻物をパンッと鳴らす。笑みを消して、睨み付けるように稲荷様に桃色の瞳を向けた。
「1度生を終えた者は、我々が次の生を決めるまでの間に前の生を忘れるわ。稀に、強い未練がある者には前世の記憶と称して残ることがあるみたいだけれど、何度も繰り返している生の記憶が混ざっていないとは言い切れない。基本的には忘れるものだし私達も特に問題視してないわ。それに、そもそも生を記録した巻物を作り出した時点で、その記憶は抜かれたも同然なのよ」
説明しながら、巻物を握る。記憶を抜くということに少し驚いたが、稲荷様は私とは違い愕然とした様子だった。そういえば、稲荷様は試練の前に少女に関する記憶を巻物にされていた。覚えているようだから抜かれたわけじゃないのだろうが、この時点で説明に矛盾が生じている。
「私達が干渉しようとしてなった結果じゃないから、恨むのはやめてちょうだい。対等な貴方と管理下のヒトとでは違うのよ」
私の疑問を読んだかのように、神という対等な立場では記憶の引き抜きが作用しないと説明してくれる。私は本来ここにいないので、偶然だとは思うが。
「…そうか。ならば、いい」
「そう?じゃあ貴方の使として…」
読様が少女を約束通り稲荷様の使とするため、桜に手を伸ばす。その手を稲荷様が掴んで、止める。
「…その者を、使ではなく良き運命の元へと転生させてほしい」
「は!?」
「え!?」
稲荷様の願いに、読様と兎様が戸惑いの声を上げた。当然だろう、稲荷様は少女を使とするためにヒトの年月でいう50年を費やしたのだ。少女の一生を考えれば罪人として別の世界に送られる可能性も低かっただろうし、何をしなくとも転生になっていただろう。努力を無に帰すようなものである。
「わたし達の世でもう一度生を受ければ、悠久に近い時を享楽的に過ごすことも可能だろう。だが、わたしは其奴に、ヒトとしての幸せな生を歩ませてやりたい。前世で叶わなかった分まで帳尻を合わせてやってほしい。ヒトの幸せというものを、見せてほしいのだ」
稲荷様の真剣な瞳に気圧されたかのように、読様は視線を気まずそうに彷徨わせた後、はぁと息を吐いた。
「努力はするわ」
こうして、使となる筈だった少女は新たな生へと転じることになったのだった。
「待ってくれ、読」
焦った様子で顔を上げる稲荷様。何だと首を傾げる読様をまっすぐ見つめ、真剣な顔で問いかける。
「先に一つ聞かせてくれ。彼女の記憶はどうなる?生きていた時のことは覚えているのか、それとも」
「覚えているわけないでしょう」
読様が手に持っていた巻物をパンッと鳴らす。笑みを消して、睨み付けるように稲荷様に桃色の瞳を向けた。
「1度生を終えた者は、我々が次の生を決めるまでの間に前の生を忘れるわ。稀に、強い未練がある者には前世の記憶と称して残ることがあるみたいだけれど、何度も繰り返している生の記憶が混ざっていないとは言い切れない。基本的には忘れるものだし私達も特に問題視してないわ。それに、そもそも生を記録した巻物を作り出した時点で、その記憶は抜かれたも同然なのよ」
説明しながら、巻物を握る。記憶を抜くということに少し驚いたが、稲荷様は私とは違い愕然とした様子だった。そういえば、稲荷様は試練の前に少女に関する記憶を巻物にされていた。覚えているようだから抜かれたわけじゃないのだろうが、この時点で説明に矛盾が生じている。
「私達が干渉しようとしてなった結果じゃないから、恨むのはやめてちょうだい。対等な貴方と管理下のヒトとでは違うのよ」
私の疑問を読んだかのように、神という対等な立場では記憶の引き抜きが作用しないと説明してくれる。私は本来ここにいないので、偶然だとは思うが。
「…そうか。ならば、いい」
「そう?じゃあ貴方の使として…」
読様が少女を約束通り稲荷様の使とするため、桜に手を伸ばす。その手を稲荷様が掴んで、止める。
「…その者を、使ではなく良き運命の元へと転生させてほしい」
「は!?」
「え!?」
稲荷様の願いに、読様と兎様が戸惑いの声を上げた。当然だろう、稲荷様は少女を使とするためにヒトの年月でいう50年を費やしたのだ。少女の一生を考えれば罪人として別の世界に送られる可能性も低かっただろうし、何をしなくとも転生になっていただろう。努力を無に帰すようなものである。
「わたし達の世でもう一度生を受ければ、悠久に近い時を享楽的に過ごすことも可能だろう。だが、わたしは其奴に、ヒトとしての幸せな生を歩ませてやりたい。前世で叶わなかった分まで帳尻を合わせてやってほしい。ヒトの幸せというものを、見せてほしいのだ」
稲荷様の真剣な瞳に気圧されたかのように、読様は視線を気まずそうに彷徨わせた後、はぁと息を吐いた。
「努力はするわ」
こうして、使となる筈だった少女は新たな生へと転じることになったのだった。
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