神様自学

天ノ谷 霙

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私にその熱を 霙(短編)

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「霙」
呆れ混じりのその声音に、ほのかに熱が灯っていることを、私だけが知っている。

小学生の時隣に引っ越して来た、同い年の双子の男の子たち。何処か似ているけど、雰囲気の異なる2人。私は竜夜の相手で男子と接するのに躊躇いがなかったので、極めていつも通り話し掛けた。双子は2人共が驚いて、顔を見合わせてどうすべきかアイコンタクトをとっていた。私は困惑しつつも結論を待ち、2人がその姿勢に感動して私を受け入れてくれた。
そんな話をしたら、雪に「いや霙が強引に公園に連れ出して、遊ばざるを得ない状況にしたんだよ」と冷静にツッコまれた。そうだったかもしれない、ととぼければ深い溜息を吐かれる。嫌じゃないくせに、そうやって呆れたふりをするのは双子でそっくりだ。本当は嬉しかったり照れていたりするのを誤魔化す時の癖だ。長い付き合いの私にはバレバレなのだ。教えてはあげないけれど。
「霙」
抗議の声が聞こえて来て、私はもぞもぞと沈み込んでいた布団の海から目を出す。毛布と枕に囲まれた布の波から、雪の顔が見える。こちらを気遣うような、疲れたような、いろんな気持ちが混じり合った顔だ。私は寒いからと布団に巻き付き、絶対に出ないと言う固い意志を表明してみせる。また雪が溜め息を吐いた。その瞳には、小さな葛藤が揺らいでいる。
「俺の布団なんだけど」
「知ってる」
微かに鼻腔をくすぐるのは、雪の優しい香りだ。一緒にいると落ち着く、大好きな香り。私はわざと鼻までを布団に隠し、雪を見上げた。ベッドの端に座った雪は、こちらをじっと見つめている。眉間に皺を寄せ、何かに耐えるようにきゅっと唇を一文字に結んでいる。
あぁ、ばかだな。
相変わらず私の気持ちを察するのが下手だ。普段から私が短気なせいか、本気で怒るとオロオロするばかりで行動に移すのが遅いし、そのせいで更に怒りを買う。私が照れて黙ると、何かまずかったのかと戸惑って泣きそうな顔をする。私が雪と話したくて、誤魔化すために雪と一緒にいる人に話し掛けるとヤキモチを妬く。戦略も策略も、全部ストレートにしなければ通じない。だからこそ自分もストレートにしなければ通じないと考えている。向けられる瞳に熱が篭っていることも、その視線が私の肌を這っていることも、全部無自覚だ。
くいっと服の袖を引く。驚いてこちらを見る瞳が可笑しくて、笑いながら魔法の言葉を呟いた。苦虫を噛み潰したような顔を真っ赤に染めて、私を嗜めるように布団を剥がす。
私を温めるのは、やっぱり雪が良い。
名前と違って熱すぎる体温が、私に覆い被さった。
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