神様自学

天ノ谷 霙

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2月26日 迷いと閃き

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私の中で、花が、散る。

使おうとしていた神力が行き場を失って、霧散した。脳内を響く声がもう一つ増える。心の中で何かに耐えるように苦しげな、酷く寂しげな羅樹の声だ。

『いか、ないで』

『いなくならないで』

私の中で迷いが生じる。逡巡して、手が宙を彷徨う。私がここで力を使って倒れたら、きっとまた羅樹が辛い思いをする。今まで何度も押し殺させてきた悲痛な叫びを、また飲み込ませることになってしまう。私のせいで、羅樹が痛い思いをするのは嫌だ。駄目だ。そんなの、絶対良くない。
けれど私の中で恋音こいねさんは苦しげに呻いているし、目の前にいる青海川くんは息を荒げて胸を押さえている。原因は恐らく、青海川くんの前世の記憶。随筆家であった彼の心が、何かに反応して今の青海川くんを苦しめている。それが何に反応したのかは分からない。私も一緒に倒れたのは、"恋使“の力によって青海川くんの前世の記憶が無意識下に伝わって来て、無理やり共鳴状態にされたからだと思う。今までだって"恋使"の力を使う度に頭痛がしたり、気持ち悪くなったりということはあった。それが意識的か無意識的かの違い、ただそれだけだ。それに足して、最近は大きな力を使い過ぎていたから。視界を戻したから。だからきっと体にかかる負担が大きい。神様である虹に掛けられた呪いすら解く恋音さんが苦しんでるのは、解けない苦しみである以上に渡した分が大きすぎたからだろう。
私自身、辛くないわけではない。歩くのがギリギリやっとであるし、少し動けば自分の体とは思えないほどの怠さに襲われる。それ程までに、随筆家の彼を縛る何かは大きいのだ。
「……ゆ、き……?」
手元に落ちた薄い影が、ハラハラと地面に向かって揺れ動く。顔を上げると、先程と同様に雪が舞い落ちている。しんしんと降り積もるそれは、学校で見た時とは異なり酷く心を揺さぶった。
雪。冷たい。冬。
炎。火事。乾燥。
頭の中を駆け巡ったのは、せん様の前世として見た奥方様の記憶だ。焼け落ちる城の中で、静かに自身の終わりを待つ女性の姿が見えた。城の前で泣き叫ぶ少女の姿が見えたのは、恐らく深沙ちゃんの前世、舞茶まいちゃさんの記憶だろう。轟々と燃える城は、かなり燃え広がり方が酷かった。
火災が起きたのは、雨を乞い、晴れを呼ぶ儀式を終えた後だった。
つまり、大晦日だった。
現代よりも空気は冷えやすく、きっと降雪量も多かったであろう冬だった。
舞茶さんはすぐに奥方様の訃報を随筆家に届けに行ったと話していた。
では一体、愛する人の死を知ったその日の天気は、どんな空模様を描いていたのだろう。
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