神様自学

天ノ谷 霙

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2月18日 邪魔出来ない

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小野くんに促されて青海川くんと共に教室に入ると、何か探していたらしい由芽が振り向いた。その手元では絵の具を入れる用の大きめのバッグが握られている。
「あれ、演劇部?」
「そう。小物は個人で作らなきゃいけないから」
「なるほど。あれも?」
私が指したのは、由芽が探し物をしていたすぐ近くの席に座り真剣に何かを描いている霙と、その背後を狙って手を上げたり下ろしたりソワソワしている雪くんである。今日、生徒たちを浮き足立たせた天候の雪ではなく、冬間双子の弟の方の雪くんである。彼はその瞳にキラキラした熱を灯しながら、まっすぐに作業に集中している恋人を見つめている。そんな2人を見ながら、由芽は表面上だけはあくまで呆れたという様子でわざとらしく溜め息を吐いた。瞳の奥に、楽しそうな悪戯心を秘めながら。
「そう。霙って一旦集中したら切れないのね。話し掛けても何も返ってこないから、帰ろうとしてた通訳呼んだのよ」
通訳とは、言わずもがな雪くんのことだろう。双子の兄である富くんと共に幼馴染といっても良い関係で、霙と長い付き合いがあるのだから。
「霙の集中を切らしたら1週間口を聞いてもらえなかったことがあるらしいから、我慢してるみたいだけど。流石にあの髪型には心が揺れてるみたいね」
由芽が笑って指摘するのは、いつもと違う霙の髪型である。普段は下側に結んだツインテールを無造作に垂らしているが、今日は綺麗に結い上げられ、ツイスト編みを加えられたポニーテールになっている。滅多に見られない頸が余すところなく晒され、青がかった水色の髪が動きに合わせてふわふわと揺れていた。恋人の珍しい髪型に、ちょっかいを出したくて仕方ないらしい。けれどその反動が怖くて何も出来ないといったところか。チラチラと霙の様子を伺っては、何かしようとして手を押さえるの繰り返しである。確かにあの動きを見ていれば、由芽の楽しそうな様子にも頷ける。
「夕音、帰ろう!」
ガラッとドアが開いたと同時に声を掛けられ、由芽と一緒に振り向く。そこには今にも駆け出しそうにはしゃいだ羅樹が、見えない筈の尻尾を振り回して待っていた。積もったら遊べるかもしれない、と話したのは今朝だ。羅樹も雪遊びを楽しみにしているのだろう。近所の雪かきついでに雪だるまでも作ろうかと考えていると、由芽が唖然とした表情で羅樹を見ていた。
「由芽?どうしたの?」
「あ、いや…榊原くん、よね?」
「他に誰に見えるの?」
質問に質問で返すと、由芽はいっそ感心したような目を私に向けて来た。
「あんな表情するのね」
言葉の意味が分からず首を傾げていると、由芽がくすくすと笑って私達を教室から送り出した。集中が切れたらしい霙を見て、雪くんが真っ先にその背中に飛び込み、「ぐえっ」という呻き声に似た悲鳴を後ろで聞いた。
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