神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
589 / 812

2月18日 降雪登下校

しおりを挟む
寒空の下、マフラーの隙間でそっと息を吐く。白く上る息を目線で追って、いつもと変わった景色を確認した。恐らくヒトには見えない筈のモノ。蠢くそれらは、私の側にずっといたモノ。視界が変わっただけで、それらとの関係が変わったわけではない。認識出来たのは昔も同じなのだから。
「…よしっ」
約束の時間になると、羅樹が家から出て来る。私を見て一瞬目を丸くした羅樹は、口角を緩めて心の底から嬉しそうに笑った。私はその笑顔にドキッとしながらも、平静を装って隣に並び立つ。
何だか昨日のことが嘘みたいだ。
いつも通り会話をしながら、学校へ向かう中でふとそんなことを思う。羅樹のトラウマを知って、心の奥に押し殺していた不安を聞いて、約束をした。私の視界は変わって、覚悟して、これから先も羅樹の隣にいる為の解決策を探すことにした。怒涛の1日だったな、と思い返す。1日といっても、特に濃かったのは放課後の数時間だ。あちらの世に渡ったことも手伝って、余計に色濃い1日だったと思う。出会いとその思い出は、私の中に記録されていく。恋に関係あるものは、稲荷様にも伝わっていく。それが"恋使"である私の役目。あちら側に近付いてしまった私の役目。
妙に鼻先が冷える気がして擦ると、手に真っ白なものが乗っていることに気付いた。思わず顔を上げると、曇り空からチラチラと雪が降っているのが見えた。
「雪だ!」
いつの間に降って来たのか、ふわふわと地面に舞い降りては溶けていく。
「本当だ。予報では午後からだったのに」
「そうなの?積もるかな」
「結構降るみたいだし、遊べるかもね」
羅樹が微笑むのを見て、私は雪が積もったら何して遊ぼうか考えていた頭を一旦停止させた。何だか昨日より格好良い気がする。これが惚れた弱みというやつか、と適当に理由付けをして納得させようとしたが、よくよく考えたら使い方が違うので駄目な気がした。
「うわぁぁい雪だぁぁああああ!!!!」
「っしゃオラァ!!霙!!!勝負だ!!!」
「はっはっは!名前からして私の勝ちだね!!すぐに終わらせてやらぁ!!!!」
「はぁ!?竜舐めんなよ!!」
騒がしい声が聞こえて来て目を向けると、先に登校を終えたらしい霙と竜夜くんが雪玉を投げ合っていた。小学生より元気な2人は、相変わらずだ。それを眺めているのは、由芽と雪くん。由芽は楽しそうに見守っているが、雪くんは2人の様子に呆れた様子だった。次々と現れる学生たちも、珍しい雪にはしゃいでいるようで何だか浮き足立っていた。私も楽しい。そんな中、窓から2人を覗いている影が見えた。誰だろう、と目を凝らすが判断がつかない。まぁいっか。気にしないことにして、私達はさっさと教室内に入ることにした。
しおりを挟む

処理中です...