神様自学

天ノ谷 霙

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2月17日 月夜の約束

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月夜に照らされた暗い道を、私は羅樹の手を引きながら歩く。普通に歩けば5分も掛からない下り坂。長く続く階段を1段1段、確認するように歩く。石畳の階段の分だけ開けた視界が、空に向かって広がっていく。流石に夜になると寒いもので、凍えるような震える冷たい風にさらされながらも、繋いだ手だけが場違いな程に温かかった。
空に向かって息を吐けば、白く燻って天へ昇っていく。
私の手を握ったまま、もう片方の手で子供のように目を擦る羅樹の方を振り返る。寒さだけが原因ではない赤みを顔に宿しながら、私の視線を感じるとふにゃりと笑う。この光景には覚えがある。ずっと昔に、私が否守いなもり様に誘われて境界を超えた帰り道、大泣きする羅樹を宥めるために手を繋いで帰ったのだ。その時も同じように、安心したような顔で笑った。でも少し経つと視線を落として、足元に落ちる黒い影に怯える。まるで私がそれに連れ去られるのを恐れるかのように。
あぁ、そこまで羅樹の心を巣食っているのか。
焼き付けられた幼い恐怖は、今この瞬間も羅樹の心を抉っている。
「羅樹」
迷いながらも、声を掛ける。地面に落ちていた視線が私の視線と交わる。空色の瞳の中に、夕焼け色が映り込んだ。
「私は、いなくならないよ」
いかない、と少し前に似たようなことを言った。あの時は羅樹の不安を和らげるために言っただけの、不安の根本もわかっていない口から出任せの慰めだったけれど、今は違う。少しだけ震えた声が、私の覚悟を物語る。
「羅樹が望む限りは、傍に居るよ」
子供に言い聞かせるような軽い口約束ではない。背負うと決めた、私の決意を込めて。月夜の下で靡く長髪が少しでも記憶に残れば、その分だけ強固な約束になる。それを理解しながら、私は羅樹の願う言葉を掛ける。
だって、嘘ではないから。
絶対に羅樹だけは諦めない。諦められない。何年想いを拗らせて来たと思っているのだ。私は羅樹以外の隣で歩くことは考えられない。こうして手を繋ぐのも、恋人という関係で繋ぐのも、全部羅樹が良い。羅樹じゃないと嫌なのだ。我儘だけど、羅樹が私を希望としてくれたように、私にとっての希望は羅樹なのだから。
「だからね、羅樹」
それでも、今の私は約束出来ても、この先どうなるか分からないから。嫌われるのも怖がられるのも嫌だけど、私はこれ以上手を解いて先になんて行かないから。だけど、もし。もし羅樹の目の前でいなくなりそうなことがあったら、その時は。

「もし私が約束を破りそうだって思ったら、

───私の手を掴んで、必ず怒ってね」

半月にも満たない薄暗い月の下、私達はどちらからともなく小指を絡めた。
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