神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
578 / 812

2月17日 否守様の元へ

しおりを挟む
時折頭痛や目眩に襲われるものの、日常生活には支障がないと判断して今日は登校することにした。昨日は丸1日休んだし、一昨日は午後から授業に出ていないのでその分を取り返さなければ。そう意気込んで授業に臨んだものの、特に支障はなく。昨日一昨日が週に1度の授業だったものだけを友人達に頼んでノートを写させてもらい、大体は取り返すことが出来た。一安心して、さっさと帰る。羅樹が教室まで迎えに来てくれたので、大人しく一緒に帰った。羅樹は恐らく私が向こうの世界に消えた場面を見ているし、かなり心配を掛けた筈である。羅樹が覚えているかはわからないが、突いて余計なボロを出さない自信がないので話をすることを躊躇っている。そんなことを頭の片隅で考えつつ、帰宅した。私がきちんと家の中に入るまで見送られるのは恥ずかしかったが、それだけ心配を掛けたのだ。否、掛け続けているのだ。私が向こう側に一時的にでも消えたあの日から。罪悪感に駆られるが、羅樹には内緒で行かなければならないところがある。昨日見た記憶の、否守いなもり様のところに。私の名字と同じ読みをする彼女の元へ行かなければならない。2対の最高神の片割れだと恋音こいねさんから聞いたが、今もいるのだろうか。不安に駆られながらも外に出て、近所の神社に向かう。子供の足でも向かえる程度の距離。家から5分と経たずに到着出来る神社。少し上り坂になっており、長い階段を登った先に1段高く存在する。ざっと街を一望出来るそこは、遊具もあることから小さな子供達にとっては有名な遊び場であり、私もその1人だった。鳥居を潜ってぐるりと見回すと、記憶の中と微妙に異なり、そして懐かしい感じがする。毎年三ヶ日の内には訪れている筈なのに、最近昔の記憶を鮮明に思い出したからかそちらとばかり比較してしまい、些細な違いにふと目が向いてしまう。
記憶の中で、声が聞こえたのはこちらの方。
鳥居を潜ってすぐは見えない本殿への出入り口の方に向かうと、稲穂色の髪が風に煽られてゆらゆらと揺れているのが見えた。
『ようこそ。今日は囲わなくてもこちらに来れそうですね。お待ちしてました』
彼女は手遊びのように指先をくるくる回すと、神社の敷地内に結界を張る。赤と白の鈴紐が細長く宙を舞い、囲っていく。彼女は遊んでいる子供達の安全を確認すると、微笑んで私を手招いた。私はごくりと喉を鳴らして、1歩踏み出す。きっとこのままでも話すことが出来るけど、神社の管理者に見つかったら良い言い訳が思い付かない。だから誘われたように、自分からそちらの世へ向かった。腕を振り下ろし、"恋使"へと姿を変えることで狭間を越える。遊具からは死角の、本殿が見える場所で周囲を確認してから変化へんげした。

「夕、音…?」
唯一こちらから死角の鳥居の影から、羅樹が見ていたことには気付かずに。
しおりを挟む

処理中です...